操られ人間

□蜘蛛の美術館 弐
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冬馬は一人で暗闇を走っていた
自分以外に誰もおらずまた、辺りも静かだった
冬馬の荒い息遣いと靴音が響くだけだった
なぜ走っているのか
冬馬は必死に何かから逃げていた
不意に足を躓かせ、前に倒れてしまった
転んだ衝撃で膝に痛みが走った
痛みに顔を顰めながらも前に進もうとし、顔を前に向けるとそこには巨大な蜘蛛がいた
それはウミガメくらいの大きさだった
背中をこちらに向けて蜘蛛の巣に張り付いて獲物を待っていた
冬馬は言葉を失った
蜘蛛恐怖症の冬馬にとってそれは慄かずにはいられなかった
蜘蛛の醜悪な見た目と有り得ないその巨体に吐き気を催し、堪えきれず嘔吐した
荒い呼吸をしながら蜘蛛を見ないようにしていると不意に声が聞こえた

(お前は知らないと言ったな?)

それは直接語りかけると言うより、脳に語りかけてくる感じだった
冬馬はその声の主を知っていた
それはあの茨城尚人だ
最初は話し上手でとても親しみやすく、ミステリアスな雰囲気を持つ好青年だった
しかし、昨日の放課後
その印象を覆すような冷たい殺意を帯びた鋭い眼光を真正面から自分に向けてきた
冬馬は茨城尚人という人物とは一体何なのか
その思いが拭い去れなかった

(お前は知らないと言ったな?)

また声がした
不意に前の光景が見たくて堪らなくなった
怖いもの見たさに近い
そこには巨大な蜘蛛の巣に絡め取られたもう一人の自分がいつの間にかいた
そしてそこの蜘蛛の巣に張り付いていた先ほどの巨大蜘蛛が冬馬に向かって行く
完全に獲物だと思っている

「やめろ!!!」

(もしそれが嘘だったら)

また声がした
そして蜘蛛の巣にいる冬馬と蜘蛛の距離が近づく

「やめてくれ!!」

(承知しないからな)

その声と同時に蜘蛛が冬馬の両足に噛り付いた
恐怖と不快感は限界を越えた

「やめろおぉぉおお!!!」

冬馬は発狂し、叫んだ
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