ヤマトヒメ
□No.5 躊躇
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オールマイトが終了の合図をした後、モニタールームは静かだった。
すると誰かがぽつりとその空気を断ち切るように喋り始めた。
「負けたほうがほぼ無傷で、勝ったほうが倒れてら…。」
「勝負に負けて、試合に勝ったというところか…。」
「訓練だけど。」
次々に上がる戦闘訓練の感想を耳に入れつつ、モニターをじっと見続けた。
緑谷君は個性の反動で倒れ、麗日さんも吐き気を催しているのか、飯田君に背中を擦ってもらっていた。
それよりも、心配なのは爆豪の方だった。
『(自尊心の塊の彼からしたら、今回のは結構効いてるはず…。)』
呆然としたまま、自分の掌と倒れている緑谷君を交互に見る爆豪にはいつもの余裕の表情は見て取れなかった。
――負傷した緑谷君をハンソーロボが回収し、突っ立ったままの爆豪をオールマイトが連れてきた。
モニタールームでは先ほどの戦闘訓練の講評が早速行われた。
「今戦のベストは飯田少年だけどな!」
「ななッ!?」
「勝ったお茶子ちゃんか、緑谷ちゃんじゃないの?」
「何故だろうな〜〜?分かる人!?」
目がくりっと大きいカエルを意識した緑色のコスチュームに身を包んだ蛙吸さんが質問すると、オールマイトは楽しそうに生徒に意見を求めた。
「はい、オールマイト先生。それは飯田さんが一番状況設定に順応していたから。
爆豪さんの行動は戦闘を見た限り、私怨丸出しの独断。そして先ほど先生が仰っていた通り、屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですね。
麗日さんは中盤の気の緩み。そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。
ハリボテを"核"として扱っていたら、あんな危険な行為は出来ませんわ。
相手への対策をこなし、且つ、"核の争奪"をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後、対応が遅れた…。ヒーローチームの勝ちは"訓練"という甘えから生じた反則のようなものですわ。」
<シーーーーン>
余りにも八百万さんが的を射たコメントだったので、皆、黙り込んでしまい、モニタールームは静寂に包まれてしまった。
「ま、まぁ…飯田少年も固すぎる節があったりあするわけだが…、まぁ、正解だよ!くぅ…ッ」
オールマイトは思ったよりも言われてしまったことに、ショックを受けつつも八百万さんを褒めた。
「常に下学上達!一意専心に励まねば、トップヒーローになどなれませんので!」
流石、推薦入学者という訳だけあり、秀才のようだった。