ヤマトヒメ
□No.2 スタートライン
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――商店街で起きたヘドロ事件から数か月
ついに、雄英高校の入学試験の日がやってきた。
『(受験票も持ったし、スポーツウェアも持った…。)』
持ち物の最終チェックをし、部屋を出る。
「命。」
『ん?』
玄関で靴を履いていると、後ろから声をかけられ、振り向くとそこにはいつもの穏やかな笑みを浮かべた母がいた。
「落ち着いて、頑張っておいで。」
"はい、お弁当。"と言葉が続き、私はそれを受け取った。
『…行ってきます。』
心強い母の応援を受けて、雄英高校に向けて一歩を踏み出した。
『大きい…。』
学校に着いて第一声はそれ。
校舎も、門も異様にでかいのだ。
大きさに圧倒されつつも試験の説明が行われる会場に入った。
――――
「そんじゃ、実技試験の内容をサクッと説明するぜ!」
ステージの上には、ラジオでも有名なヒーロー、プレゼント・マイクが登壇していた。
いつものラジオの時と同じノリで始まった説明だが、一度もコール&レスポンスが決まることはなかった。
『(同じ学校の人が被って、協力できないようになってるのか…。)』
「演習場には仮想敵が3種配置されており、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある。
各々なりの個性で仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐのがリスナーの目的だ。
勿論、他人への攻撃などアンチヒーローな行動はご法度だぜ?」
『(仮想敵か…。)』
「質問よろしいでしょうか!」
ビシッと効果音が付きそうなほどの勢いで手を真っ直ぐに上げたのは、私の隣の人だった。
プレゼント・マイクが了承すると、その人にスポットライトが当たる。
「プリントには、4種類の敵が記載されておりますが…、誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態。
我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求め、今この場に座しているのです!」
『(最後まで聞いてれば、ちゃんとこのことも説明があると思うけど…。)』
指摘されたプリントを見ると、確かに3種ではなく4種類の敵の図が記されている。
が、こんな大事なことを試験の説明でしない訳がない、と思う…。
「ついでにそこの縮れ毛の君!
先ほどからぼそぼそと…、気が散る!」
質問をしたかと思えば、急に後ろの席の受験者を指差して、注意までした。
『(縮れ毛…)』
知り合いに似たような髪形をした少年がいることを思い出し、ちらっと後ろを見るとそこには、やはり同じ中学の緑谷くんがいた。
『(しかも、隣、爆豪とか…。)』
目線と左に移せば、いつもより数倍増してるであろう、吊り上がった目がこちらを見ていた。
『ッひ…』
思わず口から極僅かな小さな悲鳴を溢し、ぐるんっと勢いよく前へと視線を戻した。
『(今、こっち見てた!?)』
後ろから殺気のような視線を感じ、冷や汗がダラダラと流れてきた。