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□おてんばGingham
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会話がひと段落したとき僕はそういえば、と日曜日が一日オフになったことを春佳に伝えた。
すると途端に受話器の向こうから聞こえる息の音が大きくなる。
多分、喜んでいるのだろう。


「じゃあ、デートしよう!あのね、私遊覧船に乗りたくて」
「そんなに大きな声でなくても聞こえます」
「だって、ずっと乗ってみたいなって思ってたから」


遊覧船、名前くらいは聞いたことがあるが乗ったことも見たこともない。
そもそも、僕の故郷にはそんな洒落たスポットなるものがないから。
果たして、そんなに楽しいところなのだろうか。
少し心配であったが、彼女の行きたいところなら構わないと思い、僕も賛成した。





***





船内には僕たちの他にも観光客やカップルがちらほらいた。
それを見て少し安心する。
僕が周りを見回している間、春佳は既に奥の大きな窓に手をあてて外を眺めていた。
全く、お転婆すぎて困る。
そういうところも、彼女の魅力ではあるのだが。


「すごい!」
「それはよかった」
「上、行こう」
「あっ、ちょっと…」





腕を引かれるがままに階段を登ると、急に目の前に夏らしい青と白のギンガムチェックが広がった。
―――スカートだ。
今まで気づかなかったが、そういえば今日の彼女のスカートはとても丈が短い。
まぁ、綺麗な脚なのはいい。
だが、この角度から見ると柔らかい素材のスカートの中から下着が見えそうだ。
み、見える…!
一瞬焦ったが、後ろに誰もいないことを確認して、安堵した。



そんなことをしている間に一番上まで来たようだ。
景色を眺めたいが、風が強くて顔にかかる髪をはらうことに神経が行ってしまう。


「あ、そんなに走ったら転びますよ!」
「平気!」


だが春佳は僕より長い髪が乱れることなど微塵も気にしていない。
それどころか、ヒールの高いサンダルで木の床をドンドンと鳴らして奥へと走って行くではないか。
慌てて僕も、手すりを掴んで身を乗り出したり空を仰いだりしている彼女を追いかけた。

いつもいつも僕が追いかけるばかりで少し、ずるいと思う。僕も追いかけられてみたい。
けれどこのお転婆な娘を放っておくことなどできず、いつもいつも僕が追いかける羽目になる。


「んー風気持ちいい!空、綺麗。船もまだ新しくて綺麗だし」
「え、ええ」
「これ、夜だったら街中ライトアップされてもっと素敵だよね」
「………」


少し忘れかけていたが、強風のせいで彼女のギンガムチェックが上下左右にひらめく、ひらめく。
そしてそれに合わせて僕の鼓動も速まる。
もう僕は景色を楽しむどころではなくなってしまった。
今度こそ、見えてしまう…!
しかしそんなところにずっと視線をやっていたらおかしな目で見られてしまうかもしれない。

放っておくべきか?。
見えてはいけない。けど、少し、見たいような気もする。
…しかし、他の男に見られるのは絶対嫌だ!
それだけはなんとしてでも阻止したい。



あぁもう、仕方ない!
耐え切れず、僕は後ろからピッタリと春佳に覆いかぶさり、体を支えるために彼女の肩に手を回した。
なんとか僕の体で隠せそうだ。


「えっ、観月くん、どうしたの?」
「み……うなんです」
「え?」
「だ、だから!下着が見えそうなんです!」


告げた瞬間、恥ずかしさで顔から火が出るのではないかと思った。
何故僕がこんな言葉を言わなければいけないのだ。
とても格好が悪い。
でも、自分の彼女の下着が今にも世間に晒されようとしているのに、焦らずにいられる男がいるはずもないだろう。

当の本人は一瞬困惑していたが「あっ」とようやく自分のスカートを見て、状況を理解したようだった。
それを見て故意ではないことは分かっていたが、腹が立つので少し意地悪を言ってやる。


「わざとですか」
「ち、違うよ!たまたま…」
「でしたらもう少し周囲に気を配ってくれませんか」
「ご、ごめん」



「けど、これもいいね」


少し罰の悪そうな顔をしたと思ったらまたいつもの笑顔に戻り、僕の腕をぎゅっと掴む。
たしかに、この状況はロマンチックだと思えるかもしれないが、本当に自分の犯した過ちを分かっているのか、この人は。


「本当に反省しているのですか」
「してるしてる!」
「では今度からは気をつけてください」
「うん」
「………僕も、一応男なんです」
「え?ごめん、風の音で聞こえなかった!」
「な、なんでもないです!」





僕はこれからも、あなたを追いかけることになりそうです。





end

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