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□My cute girlfriend
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昼休みのざわついた校内の廊下を、俺は制服のポケットに手を入れながら、つかつかと歩いていた。
いつもと変わらず周りでは女子が俺を見て黄色い声を上げている。
こんなときぐらい静かにしてくれ、と思う。
まぁそんな俺の思惑など、あいつらが知っているわけがない。寧ろ、知っていたら怖い。


「なんだ。なんなんだあいつ」


最近あいつが俺を避けている気がする。
いや、気がするのではない、避けてやがるんだ。

「あいつ」とは俺の彼女、春佳のことである。
電話は出ないしメールの返信はこない。校内で顔を合わせても、隠れるか、俯いて走り去って行く。

一体俺様が何をしたっていうんだ?
もし不快な思いをさせたのなら、面と向かって言ってほしい。
それとも、他に男でもできたのか?
しかしもしそうだったら…多分、傷ついて立ち直れない。


ていうか、俺はなんで一人でこんなに考え込んでるんだ。
自分らしくない、と悩ましく頭を掻きむしる。
そうだ、このまま俺が動かなかったら、この問題は解決しないだろう。
何とかして行動を起こさなければいけない。





「お、跡部やん」と名を呼ばれてふと我に返った。
この声と話し方は…やっぱり。
立ち止まって声のほうに目を向けると、忍足が笑いながら片手を挙げている。


「なんやらしくない顔しとんなぁ」
「ウルセー」
「周りの女子が嘆いとったで」
「………」
「どないしたんや。俺に相談してみ」
「…数いる人間の中でお前が一番相談したくない相手だな」


ニヤリと笑って冗談めかす。
忍足も「いけずやな」と不気味な笑顔を浮かべた。


「知っとるで。春佳ちゃんのことやろ?」
「ちゃん付けすんじゃねぇ」


自分の彼女を馴れ馴れしく呼ばれると、たとえ部活の仲間でも腹が立つ。
今度は真面目に睨みを利かせてやると、忍足は焦ったようにすまんすまん、と謝った。
しかし、こいつは本当に鋭い。
どこかおちゃらけているくせに物事の本質をきちんと見抜いている、そういう奴だ。
そこがまた、腹が立つんだが。


「んで、どないしたん?」





春佳との間で起きている問題について、忍足に全てを話した。


「どうすればいいんだ、俺は」
「せやなぁ」



「せや、この作戦はどや?」
「あーん?」


名案、という感じで忍足はにその作戦とやらを話した。





***





忍足の思いついた作戦。
それは、忍足が春佳をどこか人の少ないところに呼べば(俺の名前は伏せて)二人でゆっくりと話ができるだろう、というものだった。

もう忍足が春佳を呼びに行ったので、俺は屋上に先回りして一人、佇んでいた。
忍足の作戦が正解とか、不正解とか今はそんなことどうでもいい。
とりあえず、春佳の気持ちを知りたい。
あいつは、俺を見たらどんな顔するんだろう。
驚いた顔をするのか。
ハッ、もし別れを切り出されたらどうしようか。
不安たちが次々と頭をよぎり、緊張して顔が強ばる。

しばらくして、目の前の扉が静かに開いた。
来た……!
拳にぐっと力をこめる。


「忍足くん、どうしたの」


春佳は丁寧に扉を閉め、こちらに歩み寄ろうとしたが、そこで足を止めた。
予想通り、俺を見ると目を見開き、驚いた様子だった。
そして思い出したように振り返り、扉のドアノブを捻るので、俺は思わず追いかけて必死にその手を上から握る。


「おい、ちょっと待て…!」


そうはっきりと拒否されると、さすがに疑問や悲しさを通り越して怒りを覚えていた。


「っ…」
「テメェな…なんで俺のことを避けやがるんだ!」
「か、関係ないよ!」
「関係あるだろ!彼氏だぞ!ふざけるな」


俺が手を解放してやると、春佳もドアノブから手を離した。
だが扉のほうを向いたまま、なにも口にしない。
とりあえず、どこにも行かないよう、その腰に手を回して抱きしめた。
ずっと触れられなかった感触、匂いに少し安心する。


「やめて!」


しかし春佳は俺の腕に手を突いて暴れた。
その行動に、また少し傷つく。


「お前、そんなに俺が嫌いになったのか」
「違う…そうじゃないよ」


俺の問いに対し、力が抜けたように言う。
じゃあなんなんだ。
もう、もどかしい。


「だって………太ったんだもん、私」
「ハァ?」


わけが分からず、つい腕の力が緩んだ。
すると彼女はすかさず俺から身を離し、こちらを向いて言う。


「だから、恋人だから、こうやって抱きしめたりするでしょ。でも太ったから、抱きしめられたとき、景吾くんにそれがバレるのが嫌で………避けてました」


それを聞いた途端、今度は全身の力が抜けた。
そんなことのために、俺はあれこれと嫌な想像ばかりして悩んでいたのか。
しかし、これで点と線が繋がった気がした。


「何kg太ったんだ?」
「……言いたくない」
「おうおう、そこまで頑なに隠そうとするか。言わねぇとどうなるか分かってんだろうな?」


思い切り両頬をつねってやると春佳は「いひまふ!!」と泣きそうな顔で叫んだ。


「に、2kg」


顔を真っ赤にして俯きながら恥ずかしそうに呟く彼女を見て、俺は溜め息をついた。


「あのな、2s太ったくらいで人間そんなに変わらねんだよ。それに俺様は、お前がどれだけ太ったってお前のことを嫌いになったりしねぇよ」
「ほんとに?」
「ああ」
「ありがとう。あと……ごめんなさい」


俺の剣幕が効いたのか、罰の悪そうな顔で謝罪をされた。
だが、これくらいでは許してやらない。


「だめだ、許さねえ」
「えっ」
「お前の言動のせいで、こっちはすごく傷ついて、深読みして考え込んでたんだぞ」


そうだ、そうだったんだ。こっちの身にもなれ。


「…はい」
「ほら、だから今日はめいっぱい抱きしめさせろ。お前にずっと触れてなかったから、気が狂いそうだ」


俺が両手を開くと春佳は一瞬戸惑っていたが、すぐに照れたような顔でこちらに飛び込んで来た。

もう変な心配、させんなよ。





end

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