オリジナル小説

□……中身は合ってます。〜現世が聖女の生まれ変わりとか言われてるけど、それ中身の性別しか合ってない〜
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【第一話「異世界に誕生、は夢じゃなかった」】


―意識を失っていた私は、妙な息苦しさに襲われて目を覚ましたのだけど…見えない。

いっそのこと見事なまでに真っ黒。

自分の周りに何かが纏わりついているような、そんな感覚はするのだが、それが何かを視界では確認できない。

体を動かそうとするが、上手く動かすことが出来ず、もがくだけで終わった。

(―何処だよ、ここは。私は部屋にいたのに、何でこんな所に来てるの?)


文句を垂れようと口を動かしたが、ゴボゴボと空気を吐いただけだ。

そのことに気付き、自分は水中にでもいるのかと見当をつける。


川?海?んな訳ないか。今いる場所は、もっと狭い感じがする。

そういえば、何で水中なのに息出来てるの?

気付いた瞬間、急に息が苦しくなる。


下へ下へと引っ張られる感触がして、ついで頭が締め付けられ、とてつもない痛みが全身に走る。

(痛い、痛い、痛い!!?頭がもげる!!)

突然の事に混乱をきたした脳は、痛みを終わらせる方法を無意識に選び出す。


前方のうっすらと明るい、細い一筋の道。

そこを体を一生懸命動かして、通り抜ける。


―すると

痛みが消え、一気に肺へ空気が入り込む。


「―ふぎゃあぁぁあっ!!おぎゃあぁ!!(痛かったー!!やっと空気が吸える!!)」

苦しさから開放され関口一番に発した声は…ちゃんとした言葉ではなかった。

叫び声、泣き声と呼ばれる類のものだ。



……え。何で叫び声?私サルにでもなった?


「―奥様〜!!元気な跡継ぎ様です!!」

「―そう、良かった…顔を見せてちょうだいな、可愛い『私の子』」


訳も分からないまま、少しの浮遊感の後に美女の顔が視界いっぱいに広がる。

栗色の髪に、垂れ目勝ちの青の瞳。陶器のようにツルリとした肌、柔らかく弧を描く唇。


(…文句のつけようが無い美人―ちょっと待って。今この人『私の子』って言った?)

私の母は特別不細工という程でもないが、お世辞にも美人とは言い難い顔立ちだ、父も同じく。

その私が、こんな美女の子ども?

―ないわ〜絶対にない。欠片の可能性もありえない。

あれかな、さっきまで異世界転生小説を読んでたからか。

願望が強すぎてとうとうリアルな夢を見るようになった、と?

私そんなにイタイ子だったかな?一応、現実との区別を付けてたつもりだったんだけど…



「―アイリスっ!!生まれちゃった?もう生まれちゃったの!?」

突如部屋へと駆け込んできた人物は、挨拶も無しに、美女が寝ているベッドの傍に駆けて来る。

「やあ、待ってたよ。可愛い可愛い、僕の赤ちゃん。僕がパパだよ〜」

こちらを覗きこんできた人物は、なんというか、その。

―とても落ち着く顔でした。いい意味での、平凡顔。

しかし一つおかしな所が。色彩がとんでもなく変だ。

銀髪。不自然なカラーリングではなさそうな、サラサラの。

目の色だけは、普通にありそうな緑だったが。


…この人がお父さん?

美女と平凡の子ども→ちょうど良い感じの顔になるんじゃ?色彩だけはおかしいけど。


「あら、まるで貴方の言葉を理解しているみたいね?この子」

「あぁ、将来が楽しみだ。絶対僕みたいに賢くて、君のように美人になるんだ」


自分に向けられる、慈愛に満ちた二人の笑顔がまぶしい。

向けられるべきは、私じゃないのだ。


―喜んでるけれど、所詮これは夢だ。

優しそうな両親を持った『この赤ちゃん』は幸せに暮らすだろう。


赤ちゃんは寝て、泣いて、食べて大きくなるのがお仕事だ。

その一つの眠りが今私にも訪れ始めた。


(眠い、すごく眠い。気絶して、今の『夢』を見てるから…覚めちゃうのか)


現実の世界へ。

それを残念に思うけど、仕方ない。


―あっさりと眠気に身を任せた私は、再び暗闇の世界へ意識を落とした。
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