オリジナル小説
□……中身は合ってます。〜現世が聖女の生まれ変わりとか言われてるけど、それ中身の性別しか合ってない〜
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【プロローグ】
私は読書が好きである。
ジャンルに限らず、気に入ったものなら何でも読んじゃう雑食だ。
そんな私が特に好きなもの…それは俗に『異世界転生もの』と呼ばれる、ファンタジー要素満載の小説が私は好きだ。
現実ではありえないぶっ飛んだ設定も、その内容も、全てが面白くて読んでいても飽きない。
ネット小説で流行りはじめてからというもの、色んな人が書いているこのジャンル。
それぞれの内容も、設定も似ているようで、似ていない。限りなく広がり続けるこのジャンルに、新しい小説を求め続ける私の読書欲は飢えることなく満たされている。
「―ありがとうございました、またお越し下さいませ!!」
ほら、今だって出たばかりの新刊を買ってきたところ。(ちなみに今は学校帰りで、寄り道は推奨されてないから、こっそりね!!)
内容は、剣と魔法の世界に転生するというもの。
―ここまでは、ありきたりとも言える設定だけれども…この本、一つだけ他と違うところがある。
転生は転生でも、転『性』であるという点だ。
そこそこ転生小説を読み漁ってきた私でも初体験のもの。
今までの性別が変わり、尚且つ異世界に転生した主人公はいったいどんな物語を刻むのか。
読むのが今からでも楽しみなんだけど、それは家までのお楽しみ、ということで。
「…ふふっ、やっと読める。」
家に着き、部屋へさっさと向かう。
今は両親ともに仕事でまだ帰宅してないので、勉強しなさいとお小言をくらう心配もない。
ドサッと鞄を床に放り出し、制服が皺になるのも気にせず、ベッドの上へとダイブする。
「―どれどれ」
先に鞄から取り出しておいた買ったばかりの小説の封を割いて、私はすぐに読み始めた。
「―あ、もう読んじゃった。続きを読みたいけどなぁ…今月は無理、か」
財布の中身を確認して、ハァと溜息をつく。図書館という手もあるが、この本は発売されたばかりなので、直ぐには無理だろう。
諦めたように体を反転させて、ベッドの上で仰向けになる。
胸の上には、先程読みきった本があった。
目を閉じて、本の内容を思い浮かべる。
―剣と魔法の世界。精霊がいて、ドラゴンがいて、自然豊かな風景とか?
世界を作った神様と話せたり、自分で魔法が使えたりするそんなファンタジーの世界。
それらを思い浮かべてみると、何だか無性に泣きたくなった。
―この世界は窮屈なのだ。勉強して学校へ行って、就職して。
ほとんどが決められたレールの上を歩いているようなものだ。
それが嫌だというならば、夢を見つけて、それに向かって頑張れば良いと言われる。
じゃあ、夢が無い人間はどうしたらいい?ずっと自分の考えが言えずに、その思考さえも止まっている。諦めしか持てなかった、そんな人は。
―甘いのだろうか、そんな考えを持つ私は。
努力が足りないと言われるのかな。でもその努力さえ、やりかたが分からない。
夢と言われても分からない。
だから私は、ファンタジー小説を読み漁ってるのかもしれない。
誰もが一度は望むような、そんな夢の世界を形にしたもの。
夢を持たない私にとっての、憧れを持てる唯一のものだ。
―まぁ、小説のような事が現実に起こるわけが無いと分かりきってはいるけども。
急に思考が冷めたので、体を起こし1階へ向かおうとする。
なのに―
体が石のように動かない。手足が硬直し、視界が段々と暗転し始める。
手の中から、スルリと本が床に落ちた。
(―何が、起こって)
その思考を最後に、私の意識は完全に途絶えた。
―オカエリ、ヒメ。セカイノ女神。
プロローグ〈完〉
あとがきショート
何か後半根暗な感じになりました。けどやっぱ憧れますよね、ファンタジーの世界。
※この話の一つ前にプロローグとしてましたが、こっちをプロローグにします。