空を自由に飛べ
□空を自由に飛べ10
2ページ/2ページ
「おせえんだよ、馬鹿が」
固まった及川に近付いた岩泉は開口一番辛辣な言葉を彼にぶつけた(まあいつものことなのだが)。
「…………え、な、いわ、えっ!?」
「日本語で喋れクソ川!」
「略さないでよ!」
左手に持っていたバレーボールを力いっぱいぶつける岩泉。
「いや、そうじゃなくてなんであの人いるの!?」
いつものやり取りでようやく正気を戻したのか、それでも及川は慌てたように尋ねる。
まあ当然である。
気持ちを整理してから名前に謝りに行く気満々だった、むしろそう決めたばかりの及川に追い討ちを駆けるかのように体育館には彼女がいるのだ。慌てるなという方が無理な話である。
「俺が呼んだ」
慌てふためいている及川に何も言わず、真っ直ぐ彼を見て言う岩泉。そんな彼の表情を見た及川は徐々に冷静を取り戻していくのがわかる。
「……なんで」
「お前の試合を見てもらおうと思って」
「俺の?」
「お前はあの人に憧れていた。でもあの人はもう公式戦にもコートにも立つことはなくなった」
あの人が撤回しない限り二度と。
と。
「…………っ!」
わかっていたし本人から言われていたことだが他人に、それも岩泉に言われるだけでこれほどまでに破壊力が違うのか。
さっきの決意がすでに壊されそうだ。
「だけど、だからこそ今お前の試合を見てもらうべきなんじゃないか? あの人に憧れてあの人を目指したお前がどう成長したか、どういうプレイをするのか」
「…………………………」
岩泉の言いたいことはわかる。
及川のことを想ってやってくれたのがよくわかる。
(――ああ、俺は本当にいい仲間を持ったな)
いつも彼には助けられてばかりだな、と改めて思った。
本当にいい幼馴染を持ったものだ。
だから及川は言う。
岩泉も彼女に憧れていたのを当然ながら知っていたから。
「『俺』じゃなく『俺たち』でしょ?」
「!」
「さあ、試合を再開しようか」