空を自由に飛べ
□空を自由に飛べ8
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「え、日向、知らないのか?」
いち早くどこかに飛ばした意識を取り戻した菅原が尋ねる。
「? はい、え、有名人なんですか?」
一瞬取り乱したりはしたが、よくよく考えてみたら当たり前のことだったかもしれない。
小さい頃の日向は遊びに行く途中テレビに映った『小さな巨人』を見て惹かれたのだ、それまでバレーボールに興味がなかったのだから知らなくても当然だろう。
「か、影山は知ってるよな!?」
何故か一言も発しない我が部の天才セッターを見れば、そこには目を輝かせ頬を赤く染めている影山がいた。
(……あれ?)
今の彼のそんな姿はまるで……、と考えたところで菅原は考えることをやめた。
「あの! 名前さん!」
「え、あ、なにかな」
ある程度距離があったはずなのにいつの間にか距離を縮め、名前の右手を両手で包むように握る影山。
「好きです!」
「……………………え?」
「はあ!?」
「なっ……」
思いもよらぬ告白に名前は思考が停止し、岩泉と月島に関しては怒りで気が狂いそうだった。
「あの綺麗なトス、ボールの勢いを殺すレシーブ、圧倒的なサーブにチームをまとめる姿! 俺の持っていないものをすべて持っていて、初めてみたときから好きでした!」
「あ、ああ……バレーの話ね。……ありがとう」
ぐいぐいと寄ってくる影山に珍しく名前は押されていく。
顔が引きつっているのは致しかたないだろう。
「ちょっと王様、いい加減離しなよ」
困っている名前を見かねて(どちらかというといつまで名前の手を握っているのに苛ついてなのだが)、月島は影山の襟を引っ張り、二人を離す。
「ちょっ、なにすんだ月島!」
「名前さんが困ってるの、見てわかんないの?」
「なんだと!?」
「やめろ、ふたりとも!」
「…………月島?」
いつものごとく張り合うふたりを止める大地を視界に入れながら名前は自分を助けてくれた少年の名前に反応する。どこかで聞いたことがある気がする。
「名前さん! 『跳躍の女神』ってなんですか!?」
余程気になるのか、日向は聞いてくる。
「そんなに気になるのかい?」
「はい!」
「……昔のことだし、もう時代遅れの異名さ。今更知っても意味はないよ」
「?」
『意味はない』というわりに名前の表情はどこか寂しそうだった。
「そんなことより」
先ほどまでの表情が嘘だったかのように笑顔で言う名前。
「今から練習試合なんだろう? そっちの方に集中しなよ」
「……え?」
すっかり忘れていた大地たちが準備する中、名前に会えたことでテンションが上がっていた日向がまた緊張でお腹を抱えトイレに向かったのは別の話。