空を自由に飛べ

□空を自由に飛べ3
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「で、彼らは一体何をしているんだい?」

名前の視界の先には、顔面でトスを受けているオレンジ色の髪をした小柄の少年がいた。

「トスを見ているわけでも、タイミングを合わせているわけでも、セミをしているわけでもない。むしろ目を閉じているときた。ただ闇雲に『とりあえず飛んでいればいい』みたいな状況じゃないか」

「苗字さん、バレー詳しいんですね。やっていたんですか?」

「…………まあ、ね」

「?」

名前の微妙な反応に、泣き黒子のある少年は疑問を抱いた。

「確かに、今の状況は苗字さんが言った通りで決していい状況ではないのかもしれません。ですが、今セッターは、影山は『相手が自分に合わせるトス』から『相手に自分から合わせるトス』をやろうとしているんです。まだ始めたばかりでちぐはぐですが、あの二人ならすぐにできます!」

「……なるほどね」

少年に向けていた目線をコートに戻す名前。

(つまりあのセッターは勝利に貪欲なせいで勝つためならどんな無茶なトスでも上げたんだろうな。だけど、それだけじゃ勝つことはできない。普通なら自分のやり方はなかなか変えることができないけど……過去に何かあったな)

もう一度トスを上げるがまたオレンジ髪の少年の顔にボールが当たる。

「楽しそうだな……」

トスが失敗したというのに、影山と呼ばれた少年は笑顔である。

『相手に自分から合わせるトス』というのは、本当に言葉通り、相手が丁度いい場所にトスを上げるということだろう。それがどれだけ難しいことなんて、言わなくても解っている。しかもそれを毎回だなんて。それでも彼は笑っている。

そして先ほどから顔面にボールをぶつけられる少年。

彼もなにかと文句を言っているが、それでも影山が上げるトスを打てるまで何度も飛ぶ。普通なら諦めてしまいそうな状況でありながらも、彼は恐らく百パーセント人を信じている。

「………………いいなー」

試合を見ていた名前の羨望の眼差しと共に零れた言葉は、しかし誰にも拾われることはなかった。

名前にもそんなセッターがいたら、何か変わっていたのかもしれない。

名前がそんなスパイカーだったら、諦めることはなかったのかもしれない。

目の前で悔しそうに、それでも大好きな感覚が掴めるまで何度も続けている彼らがきらきらと輝いて見えた。

そんな姿に羨ましくも――嫉妬した。
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