空を自由に飛べ

□空を自由に飛べ16
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「……騙された」

名前は今、烏野高校体育館の前にいた。

ことのきっかけは数時間前。

二つの段ボールを持ち、本日の配達先である、青空が広がるグラウンドに来ていた。校庭を走る陸上部、声を張り上げている野球部。

青春である。

さて、仕事をしようと足を動かした名前は生徒たちのラリーを眺めている男性教師に声をかけた。

お金をもらい領収書を渡すと、教師は何故か段ボールを一つしか引き取らなかった。

「? あの、こちらの商品は……」

品が入っている箱をまさかのひとつだけしか受け取らないとは思ってもみなかった名前は、もうひとつの箱を持ったままの教師に言う。

ああ、そっちは男子バレー部のです。

「え、男子バレー部?」

そちらに注文するときに、ついでにと頼まれたんですよ。

「……ついで、ですか」

確かに学校側もこちら側もまとめて注文した方が楽なのはわかるしありがたい。

(ありがたい、けども!)

男子バレー部だけに関しては別問題である。

彼女だけに関して、ではあるが。

もしお忙しそうなのであれば、こちらから渡しておきましょうか?

目の前の彼からのお言葉はとてもありがたいのではあるが、仕事として、会社として承諾してはいけないのだ。もともと、依頼主のもとに届けることをモットーとしているのだ。

これでも社会人。

負の感情によって体が動かず、仕事が終わらないなんて最悪、言語道断である

頑張れ私!

これでも立派な社会人!

男性教師に感謝と謝罪を述べ、名前は体育館へと向かったのである。

息を一つ吐き、扉に手をかけた。

「どうも、こんにちは。ご注文の品をお持ちいたしました」

体育館の中は、黒いジャージを着た生徒たちが練習をしていた。

「! 名前さんっ!」

さっきまでボールを弄っていたはずの影山がいつの間にか目の前にいた。

移動している姿がまったく見えなかった。

瞬間移動でもできるのか、こいつは。

「や、やあ、影山くん。元気そうだね」

「はい!」

きらきらとした目に、あるはずのない尻尾がはち切れんばかりに左右にぶんぶん振られているのが見える。

あれ、こんなキャラだっけ、こいつ?

いつだったか厳しいことを彼に言ったはずなのにこのリアクションは何だかおかしい。

忘れている、はずはないだろう、さすがに。

「もしかして部活に入ってくれる気に――」

「そんなわけないでしょーが。仕事です」

「…………そうですか」

入るってなんだ、学生じゃあるまいし、と影山の言葉に突っ込みたい気持ちだったがそんな影山に目に見えてしょぼんとされてしまった。

何故かこちらが悪い気になる。

とりあえず頭を撫でてみた。

「…………っ!」

驚いたリアクションのあとに徐々に頬を赤くしていく影山。

(あ。可愛い)

末期なのかもしれない。
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