空を自由に飛べ

□空を自由に飛べ15
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翌日。

「おはようございます!」

「…………ああ、うん、おはよう」

ジャージ姿に身をつつんだ影山が名前の家へと現れた。

「納得するまで来るって言いました」

「ふわぁっ……、うん、言ったね」

昨日言ったことを実行するのは構わない。

むしろすぐ実行できるのはいいことである。

いいこと、なのだが。

「少年」

「影山です」

「影山くん」

「はい!」

「今、何時か、わかる?」

「?」

影山は質問の意味がわからないのか首を傾げる。

外は明るいといっても、つい最近まで春だった。

普通にまだ少し肌寒いのである。

日も完全に登りきっていないので少し薄暗い。

「影山くん、世間には常識というものがあってね」

「名前さん!」

「え、あ、はい、なに?」

「俺と一緒に朝練に行きませんかっ!」

「人の話を聞かないなあ、きみは」

影山と知り合ってまだ日は浅いが、なんとなく彼という人間がわかってきた気がする。

「行きませんかっ!」

もう一度言う影山。

何を期待しているのか、目をきらきら輝かせ、いかにもわくわくしています! といった顔である。

「……行かないよ、そう何度も言わせないでくれ」

「…………どうしても、ですか」

「どうしても、だよ」

「……バレーが、嫌いですか?」

「………………」

顔を俯かせ、両手を握り締め問う。

「……嫌いじゃ、ないよ」

「じゃあ……っ!」

「でも、だからって、それだけの理由でよしとはできないんだよ」

感情に任せてどうこうできる問題ではないのだ。

好きだからやる、とか。

どうしても諦めきれない、とか。

そんなこと――できないのだ。

本能的な感情が理性によって制御される。

少なからず、ほとんどの人間がそうなのだ。

けれど影山は、ほんの少し人より本能に忠実なようだ。

……羨ましいとは思わない。

若いとは思うけれど。

「ほら、もう行きな? 早く行かないと朝練どころか学校に遅れるよ」

「俺はまだっ……!」

「じゃあ、考えてみてよ」

「…………?」

「どうしてそこまで求めるのか。勝利のためか、本当に――」

――あたしが必要なのか、を。
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