空を自由に飛べ
□空を自由に飛べ9
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「あの、苗字さん!」
ウォーミングアップを終え、いざ試合を始めようというとき、二階のエントランスにいる名前に声をかける大地。
「ん、どうしたんだい?」
「……ちょっと、いいですか?」
周りを気にしながらいう大地に名前は頷いて階段を降りた。
一階に降りた名前に素早く近付き、申し訳なさそうな顔で言う。
「実は日向、初めての練習試合に緊張しているらしくて、勝手ながら苗字さんにアドバイスみたいなものをしてほしくて……」
日向をリラックスしてやってほしい、と。
まあ、おそらく一番戦力になるであろう一年コンビのうちの一人ががちがちに固まっている今、まったくもって戦力外なのは容易に想像できる。これは烏野にとって予想していなかったのだろう。
チームメイトたちにプレッシャー(彼らにとってそのつもりがまったくなかろうとも)をかけられてほとんど会話が成立しないところまで来ていると誰が想像できよう。
わかった。
と。
名前は頷き、日向に近付く。
「日向くん」
「ひゃいっ!」
「……………………」
「な、なんれふか!」
噛み噛みだった。
びっくりするほどがっちがちだった。
(これは……、たしかに想像できない)
これほどまでに緊張した人間を少なくとも名前は知らなかったし見たこともなかった。
「……とりあえず、私の言った通りにしてね」
頭を必要以上に上下に振る日向。
……必死すぎる。
「はーい、息吸ってー、吐いてー」
「すうーっ、はあー」
「吸ってー、吸ってー、吸ってー、吸ってー、吸ってー」
「…………ぶはっ!」
口を大きく開け、吸った空気を全部吹き出した。ちょっと顔が青くなっているのは愛嬌ということにしておこう。
「なにするんですかっ!?」
「あはは、本当にしてくれるとは思わなかったよ」
「言われた通りにしたんです!」
「うん、そうだね、そのお陰で緊張もほぐれたようだね」
「……あ」
「緊張することは悪いことじゃない。たしかにステータスを考えると緊張しないのが一番いいと思われるかもしれないけれど、程よい緊張というのもあるんだよ、世の中には」
「してもいいんですか? 緊張」
ここまでいろんな人たちに緊張をほぐすようなことを言われていた日向にとってそれは思いもよらぬ言葉だった。
緊張は、してはいけないものだと思っていた。
「初めてなんだろう? なら緊張するのは当たり前。慣れていないことに緊張するのは自然なことだ」
日向くんのはし過ぎだけどね。
と、ほがらかに笑う名前。
「がっちがちの緊張は身体が固まって本領を発揮できない。けれども程よい緊張はそれ以上の力を発することもできるんだ。だからまず、緊張と隣同士で歩けるようになりな」
「はい!」
日向はいつもの笑顔を取り戻し、元気よく答える。