空を自由に飛べ
□空を自由に飛べ7
1ページ/2ページ
なんとなく、気の思うままに部屋の片付けをしていた金髪の眼鏡をかけた少年――月島蛍は『月バレ』という名のバレーボール雑誌のバックナンバーを見ていた(片付けをしている内に昔の本や雑誌を見つけると読んでしまうという現象に陥っていた)。
なにを思って昔読んでいたかはもうとっくに忘れてしまったが、唯一熱心に何度も読み、挙句の果てには忘れてしまわないように付箋を付けた雑誌が一つだけあった。
(…………あれ?)
付箋を貼った場所を開けば、そこには幼いときの記憶と違わない、しかしどこか最近見たことがあるような人物がでかでかと特集されていた。
バレーを始めた経緯、今までの功績や彼女の異名の横に書かれている名前を見て――
「……あ!」
彼女があのとき備品を持ってきた人物だということがわかった。
同姓同名、つい最近会った彼女を少し幼くした姿に、月島は忘れていたことを悔しく思った。
彼女――『跳躍の女神』と謳われた苗字名前を知ったのはテレビや雑誌などではなかった。
彼の兄、月島明光であった。
のちに『小さな巨人』と呼ばれる少年とチームメイトであった明光にとって苗字名前は憧れる先輩であり、決して越えることのできない大きな大きな壁であった。
しかしそれに悲観することなく、明光は弟である蛍に話していた。
今日のプレーはどうだった、や、今日も笑顔が素敵だった、とか。
そんな明光の姿はどこか恋する乙女のようではあったが、しかし当時の蛍はそんなこと気にすることはなく、ただ興奮するように聞いていた。
大好きな兄が語る大好きだという一人の少女のことを。
そして画面越しではあったが名前のプレーを、雑誌で見た名前の姿にいつしか恋に落ちていた。
名前のことは兄から聞いたことしか知らなかったし大好きな兄が熱く語っていた人物だったことからもしかして気の迷い、勘違いだったかもしれない。
それでもそのとき、真剣に恋をしていた。
たしかに恋をしていた。
彼女の話を聞きたくて兄の帰りを今か今かと待ちわびたし。
彼女の出ていた試合はすべて目を通していたし。
彼女の載っている雑誌はかならず買ったし。
彼女が出ていたテレビは録画もしていた。
真剣に。
真っ直ぐに。
純粋に――恋をした。
恋をして――いつしか消えていった。
初恋は実らない、と誰かが言っていた。
「それって無知だったから故、デショ」
彼は彼女の上辺だけしか知らなくて。
彼女は彼をまったく知らなかった。
だから彼は知ろうと、知ってもらおうと行動することを決めた。
それが一度終わった恋をもう一度するためかはまだわからないが――
あとがき→