空を自由に飛べ

□空を自由に翔べ6
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今日は珍しく、店番を名前一人でしていた。

本来二人か三人でやっているのだが祖父は入院中、叔父は配達のため現在店には名前しかいないのである。

町一番のスポーツショップと言ってももともと客層が薄いこともあり、アルバイトを雇っているわけでもない。

(もともとじいさんと叔父さんの二人でやれたんだし、一人だけでも十分なんだろうな)

だからといって決して繁盛していないというわけでもない。

(あれ、高校生だ。この時間ってまだ部活じゃないか?)

数分前に入荷された商品を棚に入れながらいましがた店に入ってきた客を見る。店の壁に飾られている時計を見ると、短針は四の数字を指している。

帰宅部の人間が暇を持て余したのかと思ったが、少年が提げているのがエナメルバッグだということに気がつき、その考えを否定する。

「………………」

「………………?」

じっと見ていたのに気がついたのか、少年と目が合う。

と、少年は笑顔を浮かべ(何故)、名前に近付いてきた。

「……いらっしゃいませ」

「お姉さんこの店の人? ここアルバイトは雇ってないって聞いてたんだけど、初めて見る顔だよね?」

「あたしはここの娘でね、アルバイトなんかじゃないさ。今年こっちに帰ってきたばかりだからきみがあたしを知らないのも無理はない」

「へえ、そうなんだ。……お姉さん、俺とどっかで会ったことない?」

「さっき自分で言ったことをもう忘れたのか? 典型的で今もまだ活用されているかどうか知らないが、こんな店の中でナンパなんてするもんじゃない」

「いや、確かにお姉さんみたいな人をデートのひとつやふたつ誘うのは普通の男なら誰でもするけど、でも、そうじゃなくて……」

「おや、嬉しいことを言ってくれるね。でも残念ながらきみとは本当に会ったことはないよ。あたしはここ数年ばかりこの土地を離れていたからね。きみは見たところ高校生だろ? ならきみが、最低でも小学生のときに会ったことになる。残念ながら当時も今も小学生の知り合いはいなかったからね、あたしときみは今日が初めてさ」

「いや、会ったってよりは見たことが……」

「……少年、部活は?」

「え?」

「何部に所属しているんだい?」

「バレー部……」

「なら昔の雑誌かなにかで見たのだろう」

そして少年は思い出した。

今尚愛読している雑誌が何年か前に女性を特集していたことを――

「……お姉さん、俺は及川徹って名前なんです。少年と呼ばないでください」

「おや? 急に敬語とはどういう心境の変化なんだい? あたしは苗字名前、是非とも名前で呼んでくれ」

少年――及川徹は目を限界まで開き、驚きで震える右手で名前を指差す。

「ちょ――『跳躍の女神』!」
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