空を自由に飛べ
□空を自由に飛べ5
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試合が終わってからほんの少ししか経ってないと言うのに、影山は日向に速攻の練習をすると言い出した。感覚が残っている今が練習する最高のタイミングである。
「早く実際の試合で試してえな……、練習試合とかねえのかな……」
そしてそれを試合でプレイしたいのは必然である。
それは日向だって同じである。
主将の大地がそれに賛同すると、「組めた!」という声と段々こちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。
体育館の中の熱い空気を逃がすために開けておいた鉄扉から顔を出したのは、額には汗だらけで着ているジャージが肩から落ちている眼鏡をかけた男の人だった。ここまで走ってきたのがありありとわかる。
「県の四強、青葉城西高校と練習試合!」
望んでいた練習試合がこうも早く実現することが嬉しいのか、日向と影山は内心(少し顔に出ているが)テンションが上がっていた。
「おっ! きみ達が『問題の』日向くんと影山くんか!」
「…………おす」
知らない先生から思いもしない覚え方をされていたことを知った二人は反応が少し遅れた。
「今年からバレー部顧問の武田一鉄です! バレーの経験はないから技術的な指導はできないけどそれ以外のところは全力で頑張るからよろしく!」
「……いい先生だな」
武田の自己紹介を聞いていた名前は誰にも聞こえないくらい小さな声で言った。
はたしてそれが聞こえたのか、武田は名前を視界に入れ、頭の上に疑問を浮かべる。
「あの、あなたは?」
「初めまして、あたしはこういう者です」
名前は本日何回目になるかわからないが、自分の店から持ってきた段ボールを一徹に見せるように持ち上げた。
「ああ! わざわざありがとうございます! すいません、丁度席を外していましたよね?」
「大丈夫ですよ。先生が忙しいのは学生の頃から身に染みてわかってますから。サインは清水さんからもらいましたし」
「重ね重ねすみません」
「いえいえ、これも仕事ですから」
お金は今払うとのことなので、名前は勿論断ることなく武田に金額(勿論自分の店ではないものも含めてである)を教えると、領収書も欲しいとのことだった。学校の、それも部品になることがわかっていたから持っていて正解だった。
「んじゃ、あたしはこれでお暇させてもらうことにします」
商品を渡したしサインも代金ももらった今、もうこの場にいる必要性をなくなった名前は体育館を出て行く。
「また当店をご贔屓に」
そんな一言を残して。