銀魂
□第三訓
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第三訓 ジャンプは時々土曜日に出るから気を付けろ
「しまったァ、今日ジャンプの発売日じゃねーか」
晩御飯の買い出しを終えた銀時、音葉、新八の3人は原チャリに3人乗りをして万事屋へと向かっていた。
「今週は土曜日発売なのを忘れてた。引き返すか」
「いいじゃん別に。また今度で」
「そうですよ。スキヤキの材料は買ったんだから」
「まァ、これもジャンプ卒業するいい機会かもしれねェ。いい歳こいて少年ジャンプってお前…いや、でも男は死ぬまで少年だしな…」
「スンマセン。恥ずかしい葛藤は心の中でやってください」
そんな話をしている時、横路地から突然1人のチャイナドレスを着た少女が飛び出して来た。
「あぶね!!」
咄嗟にブレーキを踏み、ハンドルを切るが間に合わない。
ドン。と鈍い音が響き少女は倒れた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!ひいちゃったよ、ちょっとォォォ!!」
「ええええええええ!!!?女の子ひいちゃったよ!女の子ォォォ!!」
「どうすんスか、コレ!!アンタ、よそ見してるから…」
「騒ぐんじゃねーよ。とりあえずおちついて、タイムマシン探せ」
「そ、そうだよ!落ち着こう!こういう時は、そうだ!まず、アレを呼ぼう!!ドラえもぉぉぉぉぉんっ!!!」
「アンタらがおちつけェェェ!!」
その場を落ち着かせようとする銀時と音葉だが、自分達が動揺し過ぎて自販機の商品取り出し口に頭を突っ込んだり、缶のゴミ箱の中を漁ったりしていた。
「だ…大丈夫だよ、オメーよぉ。お目覚めテレビの星座占いじゃ、週末の俺の運勢は最高だった」
「あたしだって、その星座占い水曜日は1位だったし」
「きっと奇跡的に無傷に違いねェ。なァ、オイ。お嬢……!!」
銀時は倒れている少女の体を、グイとこちらに向けた。
ドロっと溢れる赤黒い液体。
「「お目覚めテレビぃぃぃぃぃ!!」」
物凄い表情で「お目覚めテレビ」の星座占いへの苦情を叫びながら、銀時は原チャリを走らせる。
後部座席には新八と音葉が背中合わせに座り、落ちないように腹同士をロープで固定している。そして少女は音葉が膝の上に乗せ、落ちないように抱き抱えている。
「てめっ、もう、2度と見ねーからな、チキショー!!いや、でも、お天気お姉さんかわいいんだよな。オイ、どーだよ。様子は」
「いやー、ピクリとも動かないねぇ」
指で頬をつついてみるも、ぐったりとした少女が起きる気配は無い。
「早く医者に連れていかなきゃ」
そこへ、黒い高級車が後ろから近付いて来た。そして原チャリの横に並ぶと、運転していたパンチパーマの男は拳銃を抜いた。
「!!」
「ちょっ…何ィィィ!?」
新八は、突然拳銃を向けられてパニックに陥っている。
至近距離で響き渡る2発の銃声。
守るように頭を抱え、ギュッと目を閉じた新八だが、痛覚が来ない事を不思議に思い恐る恐る目を開けてみると、気絶していた筈の少女が傘を開いて弾丸を防いでいた。
「わーお」
頭の潰れた弾丸が、ポロポロと落ちる。
そして傘を閉じ、先端を車に向けて撃つ。
フロントガラスに弾痕と亀裂が入り、車は気に衝突して動かなくなった。
開いた口が塞がらない新八をよそに、少女は傘の先端から出た煙をフッと吹く。そんな彼女を音葉はじっと見詰めた。
取り敢えず謎の男から逃げ切った4人は、人気の無い裏路地に避難する。
髪を両サイドに団子に結い上げた少女は原チャリに轢かれたのにも関わらず、言い放つ。
「お前ら馬鹿デスか?私…スクーターはねられた位じゃ死なないヨ。コレ、奴らに撃たれた傷アル。もう、ふさがったネ」
「ホントだ。塞がってる」
そう言うと少女は、チャイナ服の紐を外して右肩にあった傷を、エアコンの外機の上に座っている音葉に見せた。
その間銀時はゴミ箱の上に座り、新八は見張りをしている。
「お前、ご飯にボンドでもかけて食べてんの?」
「いや、瞬間強力接着剤にご飯かけて食べてるよ」
「まァ、いいや。大丈夫そうだから俺ら行くわ。お大事に」
銀時と新八は、面倒事に巻き込まれるのは御免だ。と言わんばかりにヘルメットを被り、原チャリに乗り込む。
アクセルを踏み、出発しようとするが、
「アレ?新八、お前急に重くなった?」
少女が片手で原チャリを止めていた。
「いや、なってませんよ」
「あれ?じゃあ、音葉?」
「あたしは安定の40kg。それにまだ原チャリにも乗れてない」
タイミングを逃して原チャリに乗り込み損ねていた音葉は、エアコンの外機の上で少し不貞腐れていた。
「ヤクザに追われる少女、見捨てる大人見たことないネ」
「ああ、俺、心は少年だからさァ。それに、この国では原チャリを片手で止める奴を少女とは呼ばん。マウンテンゴリラと呼ぶ」
「もしくはドンキーコング」
その時、裏路地を歩いていたパンチパーマの男達に見つかってしまった。
「おっ、いたぞォォ。こっちだァァ!!」
「わっ、わっ、わっ」
銀時は原チャリを置いて、4人は一目散に逃げ出した。
「ちょっ、なんなの!?アイツら。ロリコンヤクザ?」
「何?ポリゴン?」
「え、それ、激レアポケモンじゃん」
逃げる最中、少女は今までの経緯を悲しそうに語り出した。
「私…江戸(ココ)に来たらマネーつかめる聞いて、遠い星からはるばるやって来たヨ」
一番後ろを走っていた銀時は、少しでも男達が近付かないようにゴミ箱を蹴り倒す。
「私の家めっさビンボー。三食ふりかけご飯。せめて三食卵かけご飯食べたいアル」
少女とその父親と兄は卓袱台を囲み、目の前に置かれた白米にサラサラとふりかけをかけて口に運ぶ。
そんな彼女が夢見るのは3食卵かけご飯が食べられる生活。
「いや、あんま変わんないんじゃ」
「そんなとき奴らに誘われた」
「ウチで働いてくれたら三食鮭茶漬け食べれるよ」
「私、それ聞いてとびついたネ」
「なんでだよ。せめて三食バラバラのもの食べようよ」
「私、地球人に比べてちょっぴ頑丈。奴らの喧嘩ひき受けた。鮭茶漬け毎日サラサラ幸せだたヨ。でも最近仕事内容エスカレーター」
ゴミ置き場に隠れた4人の前をパンチパーマ達が通り過ぎて行く。
「いや、エスカレートね」
「人のキンタマまでとってこい言われるようになったアル」
どうやら、少女の仕事はヤクザの用心棒。
「え、それは絶対痛いでしょ。もしかしてキンタマって取り外し可能?そうなの?」
「音さんやめてくださいよ。それにキンタマじゃなくて命(タマ)ね、命(タマ)」
「私、もう嫌だヨ。江戸とても恐い所。故郷(クニ)帰りたい」
暗い表情で弱音を零した少女に、ゴミ箱から出て来た銀時が鼻で笑う。
「バカだなオメー、この国じゃよォ。パンチパーマの奴と赤い服来た女の言うことは信じちゃダメよ。まァ、てめーで入りこんだ世界だ。てめーでおとし前つけるこったな。音葉」
「いーや」
「そうか」
音葉と短いやり取りを交わした銀時はさっさと何処かへ行ってしまう。
「オイ、ちょっと銀さん!音さんも止めてくださいよ」
「大丈夫大丈夫!銀ちゃんいなくても、この音ちゃんがいるからね!」
その頃、少女を仕事に誘った張本人が団子を食べながら、いつまでたっても彼女を捕まえる事が出来ない部下達に怒鳴っていた。
「バカですかァァお前ら!!娘っこ1人連れ戻すのに何、手こずってんの!?それでも極道かバカヤロォォ!!それでもパンチパーマなのかこのやろー!」
「しかし、兄貴ィ、相手はあの夜兎族ですぜ。俺らが束になったってどーにも…」
1人の男が自信無さ気に弱音を吐いた途端、喝と拳が飛ぶ。
「バカですかァお前は!!だからこそだろーが!!あの怪物娘上手いこと使えば我ら、班池組は天下とれっかもしれないんだぞ!?」
再び襲いかかる勢いで怒鳴り散らす組長を、2人の部下が羽交い締めにして抑える。
「奴らの種族は絶滅しかけてんだ。どれだけ希少価値があると思ってる。」
俯く彼等に、組長は最後の団子を食べると串をピンと弾いた。
「こっちの手に戻ってこねーようならよォ、もう構わねェ、殺せ。アレが他の組織に渡りゃ、とんでもねェ脅威になる。利用価値のねェ大きな道具は処分した方がいい」
ーー