蓮和物語

□第11話
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「由衣。どうするんだい?」

『どうするも何もやるしかないさ』

「これをかよ……」

『うん』

由衣と湊と##NAME6##の3人の目の前に積み上げられた書類の山。
5人分、もしくは6人分の書類。到底3人で終わらせられるような量ではない。
隊員全員でやれば終わりそうな気もするが、辺りに##NAME7##と##NAME8##の姿は見えない。

「じゃあ、俺がこの山をするから湊は……」

『いや……これ全部あたしがするから湊は2人を探しに行ってきてくれないかな?』

「俺が?あいつらを?」

『きっといい訓練になるさ』

「……確かにそうだね。行っておいで」

少し思考を巡らせた##NAME6##はニコリと笑った。

「へーへー、あいつら捕まえてくりゃいいんだろ?んじゃちょっくら行ってくるわ」

湊面倒くさそうに伸びをして軋む扉を押した。
そんな彼に##NAME6##は苦笑いをした。

「そう簡単に行くもんじゃないんだろうけどね」

『ははは、まぁ体力づくりと瞬歩の訓練さ』

元は罪人と言えど席官に配属される強さ。
つい昨日まで真央霊術院にいて、きちんと卒業した訳でもない湊が追い付けるはずもない。

「で、俺はどうすればいいのかな?」

『外回り任せていいかな?
書類はどうせあたしが最後に見るんだから全部やる』

「了解」

壁に立て掛けておいた斬魄刀を腰にさし、扉へと向かう##NAME6##は振り返って由衣に言った。

「ついでに何処かから掃除道具借りて来るよ。いつまでもこのままじゃいけないからね」

『お願いするよ。……じゃあもし何かあったらこれ使って』

由衣は小さな小包を懐から出して##NAME6##に投げた。
左手でキャッチするとその重みから中身がわかったようで目を丸くした。

「どうしたんだい?このお金」

まだ給料のない蓮和隊が隊のお金を持っている筈もない。

『あたしのお兄ちゃんが昔くれたんだ』

「そんな大事なもの使っ…………じゃあ俺は行くよ。君にお客さんが来たみたいだからね」

『いってらっしゃい?』

言葉を切らして##NAME6##は穏やかに笑うと隊舎を出ていった。
疑問符を浮かべていると、彼と入れ違いに少年が入ってきた。
その少年は腕を組んで眉間に皺を寄せている。

『……お客さん……』

そういうことか。##NAME6##は気を利かして出て行ったのだろう。
有難いことなのだろうが、目の前の少年の様子を見ると全く有り難くない。

『……やぁ!いらっしゃい!君が初めてのお客さんだよ!』

ピクリと眉間の皺が動いた。刹那、飛んでくる怒号。

「由衣ーーーーっ!!!!」

隊舎がひっくり返るような怒鳴り声に思わず耳を塞ぐ。

「まず!!何故勝手に居なくなった!!?」

『えと……お、追い出された……』

「追い出されたァ!?誰にだ!!?」

『……知らない人……』

「俺はいっつも言ってただろ!「知らない人に付いていくな」って!!」

『ご、ごめんなさいっ』

「次!!帰ってきたならちゃんと俺のところに来い!!!」

『ごめんなさいっ』

謝る由衣に少年─日番谷冬獅郎は溜息を吐いて怒鳴る事を辞めた。
そして彼女の存在を確認するかのように頭をくしゃりと撫でる。

「……帰ってきたんだな」

『うん。ただいま』

「……おかえり」

ぶっきらぼうに放たれた「おかえり」が由衣の心を温かくしてくれた。

これが冬獅郎が「兄妹」として接してくれた最後になった。

隊舎の中だと汚れるので外へ出た2人は草の上に腰を下ろした。

「……お前……隊長になったんだな」

『シロ兄も隊長じゃないか』

「……日番谷隊長だ。お前も護廷に入ったんだ、公私をわきまえろ「風浦」」

由衣と言う名前ではなく風浦と言う苗字で呼ばれた。
距離を置かれたような気がして少し切なくなって目尻をさげた。

『……「護廷」ねぇ……あたしは護廷じゃないよ「蓮和隊」さ、冬獅郎』

「日番谷隊長だ」

『いいじゃないか、シロ兄が嫌なら冬獅郎で』

「嫌だ嫌じゃないの問題じゃねーよ。公私をわきまえろって言ってんだ」

『わかった』

「ぜってーわかってねーだろ」

『うん』

「…………」

『…………こんなところにいても大丈夫?シロ兄は隊長なんだし』

「日番谷隊長だ。
仕事は松本に任せて来た……が、やってねぇだろうな」

はぁと溜息を吐く冬獅郎。
副隊長である松本乱菊の事は信頼出来るが、仕事サボリぐせが問題点である彼女の事を考えると今頃甘味処だろうか。

『大変そー……』

「俺からしたらお前も大変そうだがな」

そう言ってお化け屋敷のような隊舎に視線を送ると、由衣はのんびりと笑う。

『あはは〜。まだ始まったばっかりだから、大変だとか楽しいだとかわからないよ』

そして遠くの建物の屋根を眺めて口端を上げた。

『……でも楽しくなりそうだ……』









由衣の見ていた屋根の上には3人の死神がいた。
先頭を行く死神は藍色の髪を靡かせている##NAME7##。その少し後ろをパーカーのポケットに手を突っ込んで余裕そうに走る##NAME8##。
そして大分間を開けて走る湊。

「おおおーーーいっ!!待てよーー!!」

「「…………」」

「返事ぐらいしろーーっ!!」

「言われたでしょう?「自由にしていい」って」

「……けどっそれを言った由衣がアンタらを捕まえてこいって!!」

「「…………」」

またもや無視をされてしまい、湊は呆れたように走る足を止めた。

「……わっーたよ!!追いかけねぇから昼飯までには帰って来いよ」

踵を返そうとすると、1度止まって振り返った##NAME7##が毒を吐き捨てる。

「ふぅん。諦めるのね、いくじなしねあんた」

「んだとぉーー!!?」

目を吊り上げて大声を出したと思えば湊は再び走り出した。

「単純……」

「……##NAME7##、お前楽しんでるだろ?」

「イジリ甲斐があるのよ。あいつ」

「そうか。お前が楽しんでるならそれでいい」

そんな事を話されているなんて、楽しまれているなんて知らない湊はギャーギャーと騒ぎながら2人を追いかけた。








「いやぁほんとありがとう」

「気にしないでおくれ、孫を助けてくれたお礼だよ」

「お兄ちゃんありがとう!」

##NAME6##の片手には掃除道具。
目の前の老人女性は孫の肩に手を置いて嬉しそうに微笑んでいる。

老人の孫が虚に襲われている所を##NAME6##が助けたのだ。
そのお礼に何か出来ることはないかと聞かれ「掃除道具をかして欲しい」と言ったのだ。

「ところで本当にもらっていいのかな?」

「いいんだよ。掃除道具と孫の命、秤にかけるまでもないよ」

当たり前の如くさらっと言い切る老人に##NAME6##の微笑んだ。

「お兄ちゃん!あたし死神になるよ!」

##NAME6##は少女の目線を合わせる様にしゃがんだ。

「精霊邸で待ってるよ」

「うん!お兄ちゃんは何番隊の人なの?」

「俺はね「蓮和隊」だよ」

「れんわたいー?」

「そう蓮和隊」

「じゃあ、あたしれんわたいに入るよ!!」

ニコニコと笑う少女の頭をくしゃりと撫でると、立ち上がり手を振った。

「おばあちゃん、掃除道具ありがとう」

「お兄ちゃんバイバーイ!」

深々と頭を下げる老人の隣で大きく手を振る少女。
彼女は##NAME6##の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
















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