蓮和物語

□第9話
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「座軸は?」

「未確定だ」

「オーイ。じゃあ俺ら何処に向かって飛ばされてるんスか?」

「出るぞ地獄蝶を出せ」

満月の夜。2人の影が空座町に降りた。
その1人が持つ紙にはルキアの顔写真と銀髪の幼い少女の写真が貼られてある。
それは幼き頃の由衣の写真。

「捕えよ。さもなくば殺せ……で、こっちが捕えよ。死神の仕事じゃないスよね」

「……そうでもないさ」




歯車は彼女達の運命も変える。











「石田!?どうしたのその怪我!?」

翌日、石田は学校に遅刻していた。
そして彼がやって来たのは3限目。

驚く越智の質問に眼鏡をクイっとあげ、冷静に答える。

「階段から落ちました」

そんな理由にクラスメイトは内心思う。

──ベタだ──

──なんてベタな理由だ……──

──石田君て意外とベタ好き……──

──あんなの誰が信じるんだ……──


だが越智は対して気にすることもなく軽く流す。

「へー。ま、いいや。席付いて授業続けるから」

──いいんだ──

さっさと席に付く石田。

「石田君……どうしたんだろ……」

「さあ?」

教室内はまだ少しざわついている。

両手に包帯を巻かいた石田を眉間に皺を寄せ、じっと見る一護。

「あまり気に病むな、貴様のせいではない。奴の自業自得でついた傷だ」

ルキアの言葉にビクッと背筋を伸ばした。
図星だったようで彼女から顔を逸らす。

「べっ……べつに!あんなもん心配する程の怪我じゃねーよ!」

「ほう、誰が心配していると言った?私は気に病むなと言ったのだぞ」

「……てめえ……」

教科書で口元を隠し怪しく笑うルキアに青筋を立てる一護。
しかし、前を向いたルキアは沈んだ表情を見せた。

「俺、石田昨日見たぜ」

一護の後ろで啓吾が水色に話す。

「工事現場で1人で何か喋ってた!偉い芝居がかった口調でさ!」

「あの人が芝居がかってんのはいつもでしょ」

──……こいつ近くにいたのか……あぶねーな……──

「あいつきっと俳優志望だぜ!
なんか周りで変なカッコのおっさんと子供が踊ってたし、爆発とかもしてたし、演劇仲間と練習してたんだ。きっと!」

──ああ……神様浅野(コイツ)を馬鹿に作ってくれてありがとう……!──

石田の事でざわつく教室。
彼の怪我の本当の理由を知る織姫が石田、ルキア、一護そして由衣を見ていた。










お昼休憩。

由衣とルキアは木の太い枝の上に座っていた。
由衣は幹に凭れて目を閉じ、ルキアはぼーっと何処かを眺めている。

「───────……」

「あーー!いたいたあんなとこに!」

木下から声がして下を見ると、クラスの女子がお弁当片手に叫んでいる。

「朽木さーーん!由衣ーー!
お昼一緒にたべなーい?」









夕食の済んだ黒崎家のキッチン。
一護は残り物をお椀によそっていた。

「お兄ちゃん!!また勝手に残り物いじって」

「夜食だよ夜食。育ち盛りは大変なのだ」

「太っても知りませんからね!」

「へーーい。気をつけまーーす」

遊子の注意を軽く聞き流し、ルキアの待つ自室へと入った。

「おーーーい
ルーーキアーー晩飯だぞーーー……って、ありゃ?」

呼んでも返事がない。
ご飯となれば「遅いではないか」といって押し入れから出て来る筈だが無反応。

「何だよアイツ。またどっか行ってやがんな……」

この時一護はまだ知らなかった。
机の上に【世話になったな】と書かれた置き手紙があった事に。









リュックを背負ったルキアは一!度黒崎家を振り返る。
そして一護と由衣から離れるように走り出した。

そんなルキアを上空から見下ろす2人の影。

「背面適合113!神経結合率88.5!
マジかよ!ホントに義骸に入ってんじゃねーか……映像庁の情報をなんかアテになんねーと思ってたのによ…………朽木ルキア……」

月夜に照らされるのは赤髪を高く結わえた男と、黒い長髪で中性的な顔立ちの男。

「見ィーーーつーーーけた!」

ゴーグルを上げた赤髪の男は怪しく笑い、黒髪の男は冷たい目でルキアを見下ろしていた。

そんな事も知らないルキアは下を向いて走り続けた。
彼女の脳裏には昼間の出来事が浮んでいた。

「ねぇねぇ朽木さんて黒崎の事好きなの?」

ルキアは飲んでいた紙パックのジュースを思わず噴き出した。

「はい?」

ぼたぼたとジュースを垂らしながら聞き返す。

「ていうかぶっちゃけ、今黒崎とどういう関係?」

「どうって……お友……」

「ちょっとマハナ!その聞き方ストレート過ぎるよ!」

「何言ってんの!あんた達が気にしてるクセに訊けないでいるからあたしが代わりに訊いてんでしょ!」

「あ……あたしは別に気にしてなんかないもん!」

みちるは慌てて否定した。

「そりゃアンタはそうでしょうよ」

「みちるは一護の事嫌いじゃん」

「そうなの!?」

『ええ!?』

驚いたような声出し、みちるに目を向ける織姫と由衣。

「ち……違うよ!
別に嫌いとかじゃないよ織姫、由衣
ただちょっと顔がこわいなーとか思ってるだけで……」

慌てて手を振って訂正するみちる。
そこで千鶴が織姫を抱き込んでキッパリと言う。

「別にアンタの嗜好はどうだっていいのよ!
この話題はアンタにカンケーないんだから!カンケーあんのはあたしとヒメ!!」

「織姫はわかるけどなんでアンタもカンケーあんのよ?」

「決まってんでしょ!ここで朽木さんに頑張って一護をタラシ込んで貰えりゃ、あたしは労せずしてヒメの純潔を汚せるってスンポーよ!」

腰に手を当てて言い張る千鶴は、次にルキアの手を取り大声で叫ぶ。
そんな彼女にルキアも引いてしまっている。

「という訳だから頑張ってね朽木さん!!
あたしはアンタを応援するわっ!!
そしてヒメの純潔を我が手に!!!我が手にっ!!!」

「千鶴ちゃん……」

「あーよしよし
つーか昼間っからデカイ声でなんつーセリフを吐いてんだあの馬鹿は」

反応に困る織姫の頭を竜貴は撫でた。
そんな2人の横で由衣は首を傾げている。

『なんで織姫が関係あるんだろう……?』

「アンタは知らなくていい事よ」

竜貴がもう片方の手で由衣の頭を撫でた。
結論が知りたいマハナは身を乗り出してストレートに聞く。

「で!?結局のトコどうなのよ?
朽木さん転校してきてからしょっちゅう黒崎と由衣といるけど、黒崎の事どうこうって訳じゃないの?」

「…………黒崎君は……ただのお友達ですわ」

──好きだの嫌いだの面倒な事だ──

「え……?マジで……?」

「ええ」

「恋愛感情ないの……?」

「ええ」

「これっぽっちも……?」

「ええ!小指の甘皮ほどもありませんわ!」

「………………」

──思慕の情も親愛の情も友情も面倒な事だ──


──いずれ離れねばならぬ場所ならば、どれも枷にしかならぬ
思慕の情も親愛の情も友情も本当に本当に面倒な事だ。ましてそれを羨む感情など──











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