蓮和物語

□第5話
1ページ/6ページ










リリリリリリン


カチッ


『…………』


ガバッ!


『時間だ!』

まずは説明しよう。
目覚まし時計が鳴り「うるさいな」とそれを止める。
時計を見て数秒の間が空き眠気が一気に覚醒した。
理由はとっくに水色が来る時間だったからだ。
つまり寝坊。

ベッドから飛び上がり慌てて制服を着始める。
ふと机の上のカレンダーに目が止まる。
あぁそうか……。

『明日が命日か……』

こちらに来てから初めて失敗した仕事。
幼いながらもそれなりに経験を積んできたからと言って、気を抜きすぎたのだろう。
あの日からどんな仕事も緊張感を持つと言う事を無意識に行っている。

6年前の明日の事を由衣が漢字で表すなら「失」だ。












教室では織姫と竜貴とみちるが美術の課題の話をしていた。
丁度そこへ登校して来た一護と由衣。
それを見つけた織姫は元気よく声をかける。

「おはよう!黒崎君!!由衣!!」

「おう!オハヨ!井上!」

『おはよう織姫!
あっ竜貴とみちるもおはよう!』

「な…………何あれどうしたの!?
黒崎君今日やけに機嫌いいじゃない?ねぇ織姫!?」

「なんで……黒崎君あんなにピリピリしてるんだろ……?」

返ってきたあいさつからどこからどう見ても何時もとは全く違う一護。
みちるは機嫌がいいと捉え、織姫はピリピリしていると捉える。

「みちる今日って何日だっけ?」

「え?6月16日だけど?」

「織姫やっぱアンタ凄いわ
あたしあれに気付くのに3年かかったもん」

言っている意味がわからない織姫は声をかけるが竜貴は構わずに話を続ける。

「もし一護に急ぎの用があるなら今日のうちに済ませときな……あいつ……明日休みだから
もちろん由衣もね……」

笑顔で誤魔化そうとする一護といつもと変わらない由衣を見て竜貴は切ない表情を見せた。













「それではこれより明日の当番を決める会議を始めたいと思います!
ていうかぶっちゃけ議長は父さんなのですべての決定権も父さんにあります!!」

「えーー何だよそれ
そんなの会議じゃねぇよ!」

「こら!発言は挙手して行いたまえ参謀長官!!」

「さ……参謀長官……」

机をバンっと叩いた夏梨だが与えられた「参謀長官」と言う高立場に少しばかり目がくらんでいる。

「遊子はいつも通りお弁当参謀」

「はいっ」

「夏梨は荷物持ち」

「あァ!?」

「由衣はお供えの花参謀」

『らじゃ!』

「ていうか父さん明日に合わせて髪切ったんだけどどう?」

「かわんねぇよ!!」

こんな騒がしい何時もの変わらない家族を眺めて一護は微笑んでいた。











風呂に入ったかどうかの確認をするため一護の部屋に入ろうとドアノブに手を掛けた。
しかしそのドアを開くことはせずにそのまま中から聞こえてくる会話に耳を傾ける。

「なぁルキア……死神の仕事明日1日休むっての……ダメかな……」

「何を言っているのだ!?
そんなのダメに決まっているだろう!!
貴様一体どうしたというのだ!?今朝からずっと様子が……「命日だよ」」

ルキアの反論を静かに遮り、続ける。

「明日はお袋が死んだ日なんだ……いや違うか……正確には“死んだ日“じゃない“殺された日“だ」

そう言って窓の外を見る一護の言葉にルキアは目を見開いた。



由衣はそっとその場を離れ、1階へ降りる。
階段下にいた人物は由衣が降りてきたことに下げていた頭を上げた。

『誰の所為でもないんだけどな』

「……一護か?」

『うん
自分の所為だって自分追い詰めてる
あれは誰の所為でもない事故なのに……』

「確かにそうだ」

『でも、あたしが「事故」なんて言える立場じゃないや』

「お前がそういうなら俺も同じだぞ
俺もあの時のことを「事故」とはいえねぇ」

『義父さん……』

「お前の言いたい事はわかってる

お前は昔からそういう奴だ
ほんとにあいつによく似てる子供らしく無いところが特にな」

『ははっ』

「由衣お前はただ真咲が死んだって事を悲しむだけでいい

その代わり真咲の分も長生きして沢山の人を護って助けりゃいいんだ
好きな事して好きなもん食え
お前は死神なんだ何百年も生き続けろ
そんで生きる事を絶対に諦めるな」

黒崎真咲が死んだ事を誰の所為にもしない、自分の所為にも。
だから由衣は言う「あたしは最低だ」と。

真咲の事故の日以来仕事に失敗は無い、そしてその時まで欲しいと思わなかった力が欲しいと思えた。
もし真咲が今も元気に生きていたら彼女に死神として大きな力はなかっただろう。
だから真咲の死には感謝してしまう。

それでも真咲が大好き。由衣のその気持ちをきちんと一心が解っているから「悲しむだけでいい」とそう言えるのだ。

『わかってる

わかってるさ“心さん“』

昔の呼び名を呟きながら、壁に背をあずける一心の前を通り過ぎる。

毎年この日、クラスメイトには何時もどおりに見えても、一心には由衣の姿が何時もより小さく見えている。

彼女の心の内を分かっているからかもしれない。












ーー
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ