銀魂

□第一訓
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「侍の刀はなァ、鞘におさめるもんじゃねェ。自分(テメー)の魂におさめるもんだ。時代はもう侍なんざ必要としてねェがよ。どんなに時代が変わろうと、人には忘れちゃなんねーもんがあらぁ。たとえ剣を捨てる時が来ても、魂におさめた真っすぐな剣だけはなくすなっ。ゲホッ、ガハッ、ゴホッ」

「父上!!」

「…ああ、雲一つない江戸の空…もう1度拝みたかったなァ…」

床から見える空は、幾つもの船が煙を吹いて飛んでいた。














第一訓 【天然パーマに悪い奴はいない】















──「侍の国」僕らの国がそう呼ばれていたのは、今は昔の話。──


建ち並ぶ高層ビルに、空を飛行するのは鉄の飛行機の様な船。


──かつて侍達が仰ぎ夢を馳せた江戸の空には、今は、異郷の船が飛び交う。──


そんな空の下、道を歩く人々の多くは天人と呼ばれる異人。


──かつて侍達が肩で風を切り、歩いた待には、今は、異人がふんぞり返り歩く。──













「だからバカ、おめっ…違っ…そこじゃねーよ!!そこだよ、そこ!!」

額に青筋を立てて、顔が歪む勢いで怒鳴っているのは「でにぃず」というファミレスの店主。

「おめっ、今時、レジ打ちなんてチンパンジーでもできるよ!!オメー人間じゃん!1年も勤めてんじゃん!何で出来ねーんだよ!!」

レジカウンターで店主に怒られているのは、眼鏡を掛けた少年、新八。

彼は後頭部に手を当てて申し訳なさそうに謝る。

「す…すみません。剣術しかやってこなかったものですから」

が、世の中、しかも社会に出てそんな理由は言い訳にしかならず、通用なんかしない。

「てめェェェ、まだ、剣ひきずってんのかァ!!」

「ぐはっ!!」

頬を強く殴り飛ばされるが、何も言い返さず黙って眼鏡を掛け直す。

「侍も剣ももう、とっくに滅んだんだよ!!それをいつまで侍気取りですか、テメーは!!あん?」

「オイオイ、そのへんにしておけ店長」

「?」

突然の静止の声に振り返れば天人の客だった。彼は煙草を蒸しながら新八に注文を頼む。

「オイ少年。レジはいいから牛乳頼む」

「あ…ヘイ、ただいま」

「旦那ァ、甘やかしてもらっちゃ困りまさァ」

「いや、最近の侍を見てるとなんだか哀れでなァ。廃刀令で刀奪われるわ、職を失うわ、ハローワークは失業した浪人で溢れてるらしいな。我々が地球(ココ)に来たばかりの頃は、事あるごとに侍がつっかかってきたもんだが、こうなると喧嘩友達無くしたようで寂しくてな」

天人の客は、テーブルの傍まで牛乳を持って来た新八の足に自分の足を引っ掛けて盛大に転ばせた。

「つい、ちょっかい出したくなるんだよ」

その拍子に、注いだ牛乳を全部かぶって転んだ新八は、大笑いされながらも黙って眼鏡を掛け直した。


──二十年前突如江戸に舞い降りた異人「天人」。彼等の台頭により、侍は弱体化の一途をたどる。剣も地位ももぎとられ。──


「何やってんだ、新八!!スンマセン、お客さん!!」

駆け寄ってきた店主は、新八を心配する様子も無く、彼の髪を掴んで、頭を下げさせようとする。

「オラッ、おめーが謝んだよ」


──誇りも何も僕らは捨て去った。いや…侍だけじゃない。この国に住まう者はきっと、みんな、もう…──


「おい」

「?」

突然かけられた声に、新八と店長が顔を上げた瞬間。



バカン



「がふっ」

店主が2人の人物によって殴り上げられ、そのまま天人の客の席まで吹き飛ばされる。

「わっ!!」

「なっ、なんだァ!?」

「何事だァ!?」

驚く新八の横を通った彼等の腰に携えられたのは、木刀と真剣。

「(──!?侍!?)」

2人は、その木刀を抜きながら慌てる天人達に静かに歩み寄る。

「なんだ、貴様等ァ!!」

「廃刀令の御時世に木刀なんぞぶら下げおって!!」

「ギャーギャーギャーギャー、やかましいんだよ。発情期ですかコノヤロー」

「きっとそうに決まってるね。だって、銀ちゃん、男はお母さんのお腹の中で性別が決まった時から万年発情期って言ってたじゃん」

水色が掛かった銀色の天然パーマの男の名は坂田銀時。

透き通るような真っ白な肌に、幼さの残る顔立ちをした少女の名は蓮水音葉。

「んぁー…そんな事も言ったような言ってねーような…まぁ、んな事ァどうでもいいんだ」

後頭部をポリポリと掻いた銀時は、空っぽになったパフェの容器を、音葉は割れた皿を拾い上げて見せ付ける。

「おめーら見ろコレ、てめーらが騒ぐもんだから俺のチョコレートパフェと」

「あたしのマカロニが。コレ…」

「「まるまるこぼれちゃったじゃねーか!!」」

彼等は怒りに身を任せ、木刀で天人の頭を叩き飛ばした。

「!!」

「…きっ…貴様等ァ。何をするかァァ!!」

「我々を誰だと思って…」

「そんなん、知るか!あたしのマカロニ返せッ!!」

「俺ァなァ!!医者に血糖値高過ぎって言われて…パフェなんか週一でしか食えねーんだぞ!!」

2人は大好きなパフェとマカロニを食べる間もなく、零された怒りで天人達を木刀で次々と殴っていった。

そして店を出て行く彼等を新八は呆然と目で追う。


──そいつ等は、侍というにはあまりに荒々しく。しかしチンピラというにはあまりに…──


「店長に言っとけ。味はよかったぜ」

「マカロニの硬さもいい感じ!」


──真っすぐな目をした男と女だった。──


店を後にする銀時と音葉の後ろ姿を、表に出ても追い続ける新八は、突如聞こえた笛の音にそちらを向く。

「ハイハイ、ちょっとどけてェ!!」

見れば、騒ぎを聞きつけた役人が2人こっちに向って走って来ていた。

「あっ!!いたいた!!」

「お前か、木刀振り回して暴れてる侍は!!」

彼等は新八の目の前で止まると、警棒を突き付けて言う。

「おーし。動くなよ」

「ちょっ…待って、違いますって!!」

「オイ弥七!!中調べろ!!」

新八は両手を挙げながら訴えるが、役人は聞く耳を持たず、店の中へ入って行く。

そこには銀時と音葉にやられた、あの天人達が白目を向いて倒れたままだった。

「あーあ、茶斗蘭星の大使でさァ。こりゃ国際問題になるぜ…エライ事してくれたな」

「だから僕は違いますって!!犯人はもうとっくに逃げたの!!」

必死に真実を述べるが、役人は聞き入れてはくれない。

「ハイハイ、犯人はみんなそう言うの。言い訳は凶器隠して言いなさいよ」

そう言われ、ふと腰を見れば、先程銀時が使っていた血の滴る木刀がぶら下がっていた。

「よし、じゃあ、調書とるから署まで来て」

「…アレ?あれェェェェ!?」

一瞬で青冷めた新八は、掴まれていた腕を必死に振り払って走り出した。











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