〜短編〜


□スイカ
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唸るような暑さ。
灼けつくような夏の陽射しに、ジリジリと音が聞こえるようで…。今年は温暖化の影響とかで、猛暑らしい。

夏は、都会に住んでいるのが心底嫌になる。

「はぁ…暑い」

私は項垂れて溜め息を吐いた。
エアコンが壊れて、うちわと扇風機だけ。
窓を開け下を見ると、公園の木々にとまった蝉達が騒々しく鳴きしきって、なお一層暑さが増すようだった。

「もう、ヤダーーっ!」

暑さでイライラがマックスになった私は、床へ大の字に手足を広げて横になった。

『なんやねん、喧しいやっちゃのう』

突然聞こえた関西弁。
それに、勝手に鍵で玄関を開けて入ってくる人物なんて、一人しかいない。
大の字のまま顔を横に向けて玄関を見ると、その人物は左手にビニール袋を下げ、丁度靴を脱いで上がってくるところだった。

「真島さん、もう、また勝手に入ってきて」
「ええやん、彼氏なんやし」
「今から行くから、とか連絡してくださいよ」
「あーはいはい」
「またそうやって流すー」

飄々としてて、気紛れな性格も今となってはもう慣れっこだ。

左目の眼帯も、素肌に羽織った蛇柄のジャケットに黒のレザーパンツも黒のレザーグローブも、彼にとってはトレードマークみたいなもので、夏でもその格好を崩すことはない。ある意味凄いと思う。

「一緒に食べよ思って、暑いからスイカ買うてきたんや。切ってくれや」

真島さんは、大の字のままの私の顔の上で、ビニール袋をブラブラと揺らした。

「うんっ!」

私は勢いよく体を起こすと、キッチンへと急いだ。

テーブルの上にまな板を敷いて、スイカを置く。

「真島さん、スイカの種ってたくさん入ってると嫌ですよね」
「ん?なんや急に、そやなぁ、種取んのめんどくさいわ」
「そんな時!」
「な、なんやねん」
「スイカの縦と縦の模様の間に包丁を入れてくと………ほらっ!種が少ないでしょ?」
「ホンマや…」

真島さんは切られたスイカに感心しているらしい。
私は最近テレビでやっていた豆知識をここぞとばかりに披露してみせた。
お皿に取り分け、二人で
赤く瑞々しい果肉にかぶり付く。
シャクッとした歯応えと、口の中に広がる甘さに思わず顔が綻んだ。

「美味しいねぇ真島さん」
「そやなぁ、お前と食べるからなおウマイわ」

そう言って、モグモグとスイカを頬張る真島さん。
突然キュンとする言葉を言ってみたり、付き合っていても驚くことばかり。

「…ふふっ」
「?なんやねん」
「べつにぃー」
「?ヘンなやっちゃのう…」

本当、真島さんと一緒だと、さっきまでの暑さのイライラなんてあっという間に吹き飛んでしまうから不思議だ。
ニンマリと顔を綻ばせて、スイカを頬張る。

シャクシャクと心地好い音をたてながら、私は甘い幸せを噛み締めるのだった。



おわり


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