〜短編〜
□雨冷
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絶え間無く降る雨粒が顔を濡らす。
「……冷たい」
念入りにしたメイクも、気合いを入れた髪型も、
冷たい雨のせいで何の意味もない。
予報にはない急な雨に、
道行く人々は小走りで帰路を急ぐ。
何時もの待ち合わせの場所。
だけど、
待っても待っても待ち人は来ない。
ただ時間だけが過ぎていって─
私は項垂れると、ずぶ濡れの子犬みたいに、両肩を抱えて震えていた。
「………馬鹿、大嫌い」
鼻をすすって青紫になった唇で小さく呟いてみても
その呟きは、滴となって雨音と共に掻き消えていった──。
「………嫌いにならんといて」
待ち焦がれた声。
ハッと顔を上げると、
眉尻下げた情けない表情が目の前にあった。
走ってきたのか息を切らし、濡れた前髪の先から、雫がポタポタと滴り落ちてスーツに丸い染みを作る。
その手に傘はなく、あるのは悲しい顔を浮かべる眼帯の男の姿だった。
「……やだ、きら─」
最後の言葉を言い終わる前に、強く抱き締められ、唇から声が漏れた。
「ほんまに堪忍や……」
男は私の青紫になった唇に自分の唇を重ねた。
雨の中、深く唇を重ね合う二人は、さながらテレビドラマのワンシーンのようで、通行人達も思わず足を止めた。
唇を離した後、濡れた男の頬を片手で優しく撫でた。
甘く睨む。
「もう、次は待たないから」
男は口許をほころばせた。
その手に自分の掌を重ねると、指を絡ませ固く握り締める。
「エエで、もう待たせへんから」
そう言って再び体を強く抱き締めた。