〜短編〜
□一場の春夢
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季節は巡って、
春の彼岸。
早いもので、時は否応なしに過ぎて行く。
俺は、神室町を離れ、閑静な住宅街を見下ろす小高い丘にいた。
東城会を一枚岩にしようと狂奔し、ここ最近は眠る間もない程の忙しさだった。
何年ぶりだろうか─
ここへ来るのは。
「…嶋野の親父、堪忍な。墓参りにも来んで…」
俺は、枯れた仏花を取り替えると酒を置いた。
「この酒、好きでよう飲んどったなぁ…」
手桶の水を柄杓で掬うと、墓石にかける。
今の東城会は、構成員は増えても、弱体化していく一方だ。
嶋野の親父が生きていたら、
きっと頭を真っ赤にして怒り狂うに違いない。
─なにやっとんねん!真島ァ!って、拳骨食らわせられるやろか。
俺は墓石の前にしゃがむと手を合わせた。
「まぁ…安心して眠ってくれや。俺が生きとる間は東城会を…6代目を支えたるさかい」
日の光に照らされて、墓の御影石がキラキラと光輝く。
「……あとなぁ。親父に紹介させたい女がおんねん。親父はきっと驚くやろなぁ…」
しゃがんだまま後ろを振り向いた。
女は柔らかな笑みを浮かべながら、風に靡く髪を手で押さえると、
俺の瞳をそっと見つめ返すのだった。