〜短編〜


□嫉妬の華
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「ねぇ、真島さん。黄色のヒヤシンスの西洋の花言葉って知ってます?」

「ん〜?」

真島さんは、私が作ったハンバーグをあっという間に平らげると、
満足そうに煙草を吸っている。

「花言葉ぁ?知らんなぁ。どないしたん?急に」

「今日ね、近所のお花屋さんに行ったら、綺麗だから買ってきたんです」

窓際の棚に置かれた、黄色のヒヤシンスを指差して言った。

真島さんは目を細めて、私の指先のさらに先にあるヒヤシンスを見詰める。

「店員さんがね、教えてくれたんです。西洋ではヒヤシンスの花言葉は『嫉妬』だそうですよ?あんなに綺麗なのに……」

態とらしく『嫉妬』の二文字を強調して言ってみる。

「─ふぅん。そうかぁ嫉妬かぁ…」

煙草を吸いながら、さも興味なさげに答える真島さんに、

自分はなんてめんどくさくて、嫌な女なんだろうと思いながらも、真実を確かめたくて聞いた。

「ねぇ、真島さん。私とは全然デートしてくれないのに、他の女の人とはするんですね」

「─はぁ!?」

真島さんの片目が大きく見開いた。

「何でそないな事になんねん!お前ちゅう女がおるのに他の女とデートなんてするわけないやろ」

吸っている煙草を灰皿で揉み消す。

「だって、こないだ神室町に買い物行った時、真島さん可愛い女の子と腕組んで『ル・マルシェ』入って行きましたよね?私、見ましたよ!」

「──なッッ─!」

真島さんは「あちゃ〜」と掌をおでこに当てる仕草をした。

「なんや見とったんかい」

「や、やっぱり!」

「言うとくけどな、デートとちゃうで!あの子は遥ちゃんいうてな、ワシの兄弟分の桐生チャンっちゅう、まぁ…娘みたいなもんやな。神室町に遊びに来てて、桐生チャンにプレゼントしたいから一緒に選んで欲しいてお願いされたんや」

「そんなの信じないもん!」

「信じないもん!て、困った子やなぁ…ワシが嘘言うわけないやろ」

真島さんは、ちょっと怒っているのか、僅かに眉を潜めて私を見詰める。

「う……。で、でも、最近全然会ってくれないし…」

真島さんが忙しいのは分かっているし、私の事を真剣に考えてくれているのに、猜疑心の塊みたいな自分が嫌だ。

いつの間にか私の目から頬を伝って涙が滑り落ちる。

「なっ、なんで泣くんやぁ…な?泣かんといて?ワシが悪かった寂しくさせてもうたな?すまん」

真島さんは優しい声色でよしよしと、私の頭を撫でる。

「真島さぁん〜……」

「勘弁してやぁ調子狂うで…ワシはお前にめっちゃ惚れてんのや。お前が悲しむ事は絶対にせんで」

そう言って、小鼻の脇を照れ臭そうに人指し指で掻くと、真島さんはいつもの派手なジャケットのポケットから、小さな青い小箱を取り出した。

「ホンマはもうちょっとムードのあるとこで渡したかったんやけど…」

「─ふぇ…なんですかぁ…?」

真島さんが箱を開けると、私に見せる。

キラキラと光輝くそれは、眩いほど美しい光のリング。

「─な?ワシの真剣、伝わるやろ?」

私は涙を流しながらコクリと頷いた。





〜おまけ〜

「なぁ、黄色いヒヤシンスの花言葉、
此方では何て言うか知っとる?」
「?知らないなぁ。なんですか?」
─知ってるけど言わない。

「『あなたとなら幸せ』や」

そう言うと、ドヤと自信満々に笑ってみせた。


ー終ー


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