テニスコート

□10.諦めねえ
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ミクスドは1〜3の三試合。

先に二勝した方が、トーナメントを勝ち進む。
私と海堂先輩のペアは、ミクスド3。
決勝まで順調に勝ち進んではいるものの…。

(ほとんど、海堂先輩が点取ってるようなもんだし…)

心なしかため息が漏れる。

その心を写すように、試合前から雨がテニスコートを濡らしていた。

「そう長く降らないだろうけど、試合中止か聞いてくるよ」

空を仰いだ竜崎先生が席を立つ。

何を思うともなく、その後ろ姿を見送っていると、隣から鋭い声がそれをさえぎる。

「おい鈴木。お前もアップしとけ」

海堂先輩だ。

午前からの試合のストレスか、いつもより眼光も鋭い。

さっさと背を向ける海堂先輩を、追いかけるのはなぜなのか自分でもわからない。

「あの、先輩は…」

「俺の邪魔すんじゃねえ」

静かだが有無を言わせない物言いに、私は思わず固まる。
そのことに先輩も気がついたけど、何事もなかったように、どこかへ行ってしまった。

「なかなか険悪だな」

動けない私に声をかけたのは、乾先輩だった。
男子テニス部のレギュラーの人たちが、応援に来てくれていたのだ。

「まあ、この大会の初戦から、足手まといにこそならないが、ペアとして、実力の差がありすぎるな」

どこかおもしろそうにメガネを光らせる乾先輩を、私は苦い思いで見つめ返した。

不安が募る。

「おいおーい。あんま不安にさせんなよー!」

突然視界が遮られる。
横から菊丸先輩に抱き着かれた勢いで、足元がよろける。

「メンタルが大事なんだぞ〜!」

口をとがらせながら攻める菊丸先輩に、乾先輩は素直に謝る。

「ほいほい鈴木。アップしに行くぞ〜」

背中を押されるままに、私は菊丸先輩とその場を後にした。







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