テニスコート

□1.これからここで
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ここで改めて言っておこう。

私は生粋の田舎っ子。というよりほぼ山で育ったと言っていいだろう。

自然豊かな環境と、数少ない学校の友達。

名物の頑固おやじの他は、みんなおおらかで優しい人たちだった。

一方で人は優しくても、自然は時に厳しい、しかし私は入学初日でなんとなく感じていた。

(ここは自然とは違う厳しさが、あるんじゃなかろうか!)

山を下りても見たことのないような人頭の数に、私は初めて「酔う」という感覚を味わった。

そうして心に嵐が襲いくる中、大人の話を聞けるわけもなく、他人の動きに合わせて一礼をして空気がゆるむのを感じて私は我に返った。


「これから、部活動紹介を始めます。まずは運動部からです」

生徒自らが行う部活動紹介は、式と打って変わって笑い、歓声が上がった。

しかし、さすが名門、どの部活も全国出場を掲げている。

「皆さんこんにちは、男子テニス部副部長、大石秀一郎です!」

(あの人、坊主にすればいいのに…)

さわやかに笑顔の光る副部長さんのあいさつが終わると、隣の男子生徒がマイクを取る。

「部長の手塚です」

重たい低音が場内に響いた。

「今年からは、男子団体戦に加え、女子と男子がダブルスを組む“ミクスド”にも力を入れ、部のさらなる発展を目指していきたいと思います」

几帳面な抑揚がテニス部の強固さを表しているようだ。

(でも、私の入りたい部活は違うところなんだよね)

部活一覧を見ながらその順番を待った。

「では最後に、演劇部の紹介です」

きた!私の本命は、何を隠そう演劇部。
舞台に立って、女優の才能を開花させちゃったりして…。

「演劇部は、ただいま休止中です」



・・・え。


「部室のある棟の建て替え、顧問の不在が重なり、最低でも秋までは、全面的に活動は停止することになってしまいました」







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