天てれ小説

□聴こえなくても(恋愛)
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見ていると、つい気になって近づいてしまった。

「あ、あの」

自分でも凄くびっくりする。
まさかさらっと話しかけるとは。

「あ、こんにちは!」

男の人に話しかけていた女の人が笑顔で頭を下げた。

私もつられて頭を下げる。

「ごめんね、拓巳は耳が聴こえないの」

女の人は申し訳無さそうにしつつ、男の人…拓巳さんの肩をポンと叩いて私を指差しつつメモを渡す。

と拓巳さんは振り返ると笑顔を浮かべ、手を動かす。

『こんにちは』

やはり、それっぽい発音で話している。

『僕は、耳が聴こえないから』

耳を指差してバツを作る。

『気づけなくてごめんね』

そして申し訳無さそうに頭を下げた。

「いえ、別に…あっ」

つい普通に返答してしまい、私は慌ててメモ帳を取り出して書き、拓巳さんに見せる。

“大丈夫ですよ、私も知らずに話しかけてしまったので”

拓巳さんはメモ帳を見て、私の字の下に何かを書いた。

“ありがとう、君は優しいね”

私は次のページに更に書き込む。

“拓巳さんも充分優しいです”

書いて見せると拓巳さんと目が合い、少し恥ずかしくなる。

“ありがとう”

拓巳さんの字の下に、私は返答を書いた。

“私、拓巳さんと同じ左利きです”

つい、書いてしまった。

ふと見つけた、私と拓巳さんの共通点。

“仲間だね、左利き仲間”

と拓巳さんは書いて見せる。
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