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□絶望の選択
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【絶望の選択】
「元気そうだねぇ〜」
「!???」
ナナシが気がつくと、目の前には見覚えのある男がいて、こちらを見ながらにっこりと微笑んでいるではないか。
咄嗟に周りを見渡すが、先程まで一緒に列車に乗っていた筈の炎柱の煉獄や同期の竈門炭治郎達が見当たらない。
本日、無限列車に乗り込み『鬼』を倒す任務があって、先程まで煉獄達と『列車の中に潜む鬼』について話していた筈だ……と思い出してみるが、
自分達の乗り込んだ車両へ車掌がやって来て切符を見せた後からの記憶が全く無く、ナナシは全身から焦りが湧き上がる。
「あ、…あの、……えっと」
「うふふっ」
「貴方は……」
そんなことよりも、独特なこの顔、この声、この笑い。ナナシは忘れる筈のない記憶のカケラを見つけて、口を大きく開けた。
「ああッ!!先生っっ!!!」
仲間とはぐれてしまった事実よりも、自分の病気を治してくれたあの時の命の恩人が目の前に居る驚きを、ナナシは表せれない程に感極まる。
「先生じゃないですかっ!あの… 覚えていらっしゃいますか?……私の事を……」
「俺を覚えていてくれたんだねぇ。
ナナシちゃん…」
「嬉しいっっ、忘れるわけないじゃないですか!!先生は私の命の恩人なのですからっ。こんなところでまた会えるなんて…私っ、とても嬉しいです」
命の恩人という言葉に、魘夢は『お前が勝手に病気を治してしまっただけなんだけどなぁ〜』と心の中でつぶやいている事とは知らずに
ナナシは懐かしの先生を目の前に、終始にこにこ笑っているのだ。
「相変わらずだねぇ、君は」
「私、先生のおかげで、やりたい事も見つけれたんですよ?!」
「へぇ〜。随分と楽しいそうだねぇ」
「先生が、……一歩も病室から出れない死ぬだけの私を…救ってくれたからです」
過去を思い出し遠い目をする鬼殺隊新人の彼女には魘夢が『鬼』になってしまっているという事など、全く頭をよぎらないのだ
「ところで先生、、…この列車は、危険なんです!!」
「……へぇ。それはなんでかなぁ」
「……信じてもらえないかも知れませんが、
どこかに鬼が居ます!!」
「うふふっ」
ナナシは魘夢に対して、昔と変わらず先生は呑気だなぁと思いながらも、持ってきていた日輪刀に手を添える
自分の命の恩人が乗車してると知り、気合が高まる彼女。だが魘夢はぼーっとナナシの顔を見てるだけだった。
「私は先生に沢山助けて貰いました。次は私が先生みたいに、沢山の人を救える人間になりたくて鬼殺隊になったんです!!」
「……鬼殺隊……。(この女……あんなに弱々しく死にかけてたのに、鬼殺隊に入れる程に回復したなんて…)」
魘夢は『鬼殺隊』という言葉に反応したかと思えば、いきなりニヤリと笑いナナシに顔を近づけてゆく
「んふふ … 強くなったんだねぇ。でも、ナナシ……お前に鬼は倒せない」
「弱いかもしれないですが、私はそれでも!!」
「お前の仲間は今頃夢の中。俺に夢を見させて貰えないお前はもう。……直接俺に喰われるだけ」
「先生、何を言って……」
____ボトッ 。と何かナマモノが落ちたかの様な鈍い音。
ナナシが視線を下ろすと、どこからか落ちた手首がこちらを見てにっこりと笑っているではないか。
魘夢の顔を再度見れば、見れば一目瞭然。彼は腕が取れたと言うのに笑っている……
「……手が……」
「あぁ。俺の可愛い手。行ってらっしゃい」
すると、落ちた手首がニィッと笑うと一人でに動き出す。そのあり得ない光景を目の当たりにして、ナナシは冷や汗が止まらない。
そんな困惑する彼女の顔を覗き込み、魘夢はうっとりとしているだけ。
「……鬼……。先生が、鬼…?」
「ふふふっ。絶望って顔だねぇ、それは俺が人ではないから?…何だろうねその顔は」
ナナシは刀を引き抜こうとするが、震えで上手く抜けない。そんな怯える姿を目の前に、魘夢は更に高揚していく。
「たまらないなぁ。さぁどうする?どうしたい??ナナシ。命の恩人である俺の首を……切り落としたい?それともやっぱりお前には俺を殺すことはできないのかなぁ?」
「………」
涙を浮かべるナナシは、
小さく言葉を述べた
「私は貴方と
【戦わない】
【戦う】……」
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