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□愛を育む
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『杏寿郎…… 貴方もいずれ父となり、自分の子に多大な愛情を注ぐのです』
…
…
生前母親が遺した言葉を思い出しながら、杏寿郎は妻であるナナシの顔を見つめていた。
夫婦となってからまだ5ヶ月ほどしか経っていないが、ナナシは柱である杏寿郎をしっかりと支える良き嫁であり、杏寿郎にとっても癒しの存在であった。
「??」
ナナシは夫である杏寿郎からの、その強い視線に気づき首を傾げる
「…」
「…あの…どうかしました?」
「いや、なんでもない!」
どうしたものかと問うが、杏寿郎は笑顔で首を横に振るだけ
そんな態度が気に障り、ナナシは頬を膨らませながら杏寿郎の袖をくいっと引っ張りあげた。
「あの……夫婦となれば言いたい事があるのなら何でも言い合う!と約束したじゃないですか」
そんな幼なさの残る妻の行動に対し杏寿郎はふと優しい顔で笑う
「うむ!俺たちに隠し事は無しだったな!!」
「ならっ教えてくれますか?」
杏寿郎はニコリと笑いながらナナシの頬に手を添えた
「んんーーー…… 秘密だ!!」
「えええ。酷じゃないですか!!」
「はははっ」
盛大に笑う杏寿郎。しかしナナシは面白くなさそうに肩をすくめ小さく言葉を吐き出す
「じゃあ私も沢山秘密作りますよ?貴方はそれで良いのですか?」
不貞腐れた顔をしながら、そんな意味ありげの言葉を投げ捨てたナナシに対し、杏寿郎はすぐに真面目な顔に戻ると「それは駄目だ!!」と即答をした。
「駄目ですか……なら秘密は無しです!」
いじけたナナシも素直で可愛らしいと思うが、こうして一瞬で笑顔に切り替えられるところも心から愛おしいと杏寿郎は思う。
そんな愛しの妻の瞳を見つめ優しく抱きよせると、耳元に顔を埋めた。
「ナナシ、俺は心の底からお前を愛している。」
小さく言葉を吐き出した杏寿郎に対し、ナナシも答えるかの様に小さく頷く。
「それは私もです」
「だから、……そろそろ……。」
「そろそろ?ですか……」
「ナナシ、俺との子を成してほしい!!」
「 ……!!!?」
ナナシは意味を理解したのか、杏寿郎の衣服に顔を全部埋めてしまう。
しかしそんな彼女を目の前に杏寿郎は声を上げながら笑い始めた
「ははっ、恥ずかしいのか」
「…そ、そ、……それは、、」
「だが今俺達の関係は夫婦となったのだから、将来を話すのもいい機会ではないか?俺はナナシとの子が欲しくてたまらない」
「……ん、、」
『子作り』に対して恥ずかしいのか、ナナシは一向に顔をあげようとしない。そんな妻の髪を優しく撫でながらも杏寿郎は優しく笑っていた。
「恥ずかしがる事はない!人間は命を繋ぐ生き物だ」
「そうですが……でも、その」
「ナナシ、君は子を作る為の行為に対して抵抗があるのだな?」
ニコリと笑いながら自分自身の発言に“うんうん“と頷く杏寿郎。
そんな彼に対しナナシは更に顔を赤面させてゆく
「女ならばその思考は普通だ。だが、俺は男だ!好きな女の全てを知りたいと思うし、お前を全身で感じたい。そして人間に産まれたのだから子孫を残したいと本能的に思う!!」
「……杏寿郎さん、わたし」
「うむ。言わずとも知っている!男性経験が無いのだろ?」
「……」
「心配するな!俺が優しく教えてやろう!」
ニカッと笑顔を見せた杏寿郎からは微塵も“これから性行為を行います“と匂わせる艶麗な雰囲気は感じられ無かった。
しかしそれもまた
杏寿郎らしくて良いのだろう。
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