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□遠くの君へ
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錆兎は正義感が強く、とても優しいが…どこまでも一人で先を突っ走ってしまう事があるのが偶に傷…。
そう言葉にしたナナシは、微笑む真菰にある一枚の紙を手渡した。
「真菰…ごめんね。。私がもし……帰ってこなければ渡して欲しいんだ」
「嫌だよ…。自分で渡してよ」
「ううん、それだけはできないよ…。」
涙を流す真菰に、宜しくと一言告げてナナシは立ち上がると、走って遠くへと行ってしまった
本日鬼殺隊になるための最終選別の日。
ナナシはこの日のために、鍛錬を積み重ねてきたのだが、今日に限りとても自信がなく、想い人の錆兎に最後の手紙を書いたのだ
“自分で渡す“ との選択肢が選ばれなかった理由は、錆兎に弱気を見せてしまえば怒るのは目に見えてるし
そんな遺書みたいな物は受け取りたくない…と言われるのもわかっていた
だからこそ錆兎と仲の良い真菰に頼むしかなかったのだ。
人間という生き物は、自分の死期がわかるのだろうか…。
ナナシは普段、こんな事で弱気を見せる女では無かったから、真菰は何かを察して涙を流していた…
…
その後…
本当にナナシは
最終選別から帰える事はなかった。
残された真菰は、約束を果たすためにその震える手で錆兎に預かり物を手渡した。
「これ…ナナシから…。」
「…。」
錆兎は手紙に目を通すと、
真菰に表情を隠すかの様に背を向ける
「錆兎…?」
「……。」
「ねぇ…錆兎」
そして、表情を一切見せないままに立ち上がると、そのまま何処かへと消えて行ってしまったのだ。
残された真菰は、最後に錆兎が読んだナナシの手紙に目を通した
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錆兎へ
帰れなくなってごめんね
でも私の気持ちはずっとあの丘に有ります
ナナシ
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真菰は“あの丘“でひとつだけ思い当たる場所があり、そこへ向かい駆け出した。
…
…
「錆兎!!!」
予想通り、錆兎とナナシがよく二人で訪れていたあの丘の上に錆兎は居た。
そして、真菰の呼びかけで振り向く錆兎の瞳には涙が浮かんでいたが、とても穏やかなをしていた。
「真菰…」
「ごめん、手紙見ちゃった…」
「いいよ。……これ…ナナシと俺が残した印なんだ」
丘の上にある岩に、小さく刻まれた「あいしてる」との文字。錆兎は悲しそうに微笑みながら、その傷を撫でていた
「ナナシの気持ちは、最期まで俺と同じだったんだな。」
「…錆兎。」
涙を我慢する錆兎
そんな弱い彼を見るのが初めてで、真菰は何て声をかけていいかがわからなかった。
「互いに全てが終わったら、二人で生きていこうと約束をした場所なんだ」
「そっか…」
「だが、叶わなかった…」
「…。」
錆兎はナナシがまるでそこに居るかのように…刻まれた文字に触れながら話しかけ始めた
「ナナシ、俺もそのうちそちへ逝く」
「錆兎?!」
「真菰、俺も次の最終選別に出る。ナナシの仇をうちに…」
「そっか…」
逝く と 行く
この時真菰には錆兎の言葉は全く理解できないでいたが
数ヶ月後の最終選別参加者がたった一人を除いた全ての人が生き残り、…錆兎だけが帰ぬ人となったことで、あの日の『そのうち逝く』の真意がわかったのだ。
きっと『ナナシと同じ場所に逝く』との意味だったのだろう。
そして、残された真菰は花束を掲げ1人あの丘に足を運んでいた。
…
「寂しいよ…二人とも…」
真菰は二人がよく腰掛けていたあの岩に花束を、二人のために立てかけた。
「…!!」
するとそこにはこの前錆兎ときた時には無かった“新しく文字“が刻まれていた
『生まれ変わっても、永遠に…』
『あいしてる』
きっと錆兎が最期に刻んだのだろう。
文字を見て、二人の切っても切れない想いに
涙を流し続けていた真菰は、ほんの一瞬だけ寄り添うナナシと錆兎が見えた気がして、温かい気持ちになったのだった
。おわり