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□素直でなくても
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【錆兎生存】
「お前はもう俺の血鬼術に掛かった!ケッケケ!解けるまで時間が掛…か………ッ」
私の日輪刀で首を断ち切った鬼が気色の悪い声で笑いながら、跡形もなく散っていった
今、血鬼術…と言っていたが、何の血鬼術なのだろう…。一応、しのぶさんに見てもらうべきか否か。
そんなことを考えながら街へ続く山道を走っていると、前方から私がよく知る声が聞こえてきた。
「ナナシ」
「錆兎!」
「お前と合流する様に、と鴉から伝達があった」
「もう、大丈夫だよ」
私の『大丈夫』との言葉で、錆兎は笑いながら小さく頷いた。
「そうか。無事でよかった」
「うん、帰りましょう」
錆兎もまた私と共に来た道を引き返し、私達は2人で藤の花の家へと向かう。
…
そして藤の花の家に着くなり、お風呂をお借りし、夕餉もご馳走になったりと手厚くもてなされた
そして今日の疲れを癒すかの様に一息ついた頃、錆兎が小さく私を呼んだのだ。
「…ナナシ」
「なに?」
「明日、ここを早く出よう」
「…えぇ」
「ん?、どうした?」
錆兎はいつもと違うと言いながら、“私“に違和感を感じたのか頬に触れてきた。
「熱でもあるのか?」
「……いいえ」
「じゃあ、何か悩みでもあるのか?何かあったら俺に何でも話せと言ってあるだろ」
「…なにも」
錆兎は私の反応を見るなり
不思議そうに眉を顰める
「そうか?久しぶりに二人きりになれたのに、素っ気ないな」
そう笑う錆兎に、私も自分自身いつもと違う事に気づき始めていた。いつもなら私は錆兎と二人きりになれたのなら、これでもかと言う程甘えてしまうから…
でも今日は錆兎に触れたくても、触れれないし、折角会えたのだから沢山話したいのに…なかなか言葉も出てこない
「まぁ、そんな日もあるか…、ナナシは疲れているのだろう」
「…別に。」
「ほら、おいで」
いつもは私から錆兎に抱きついたりするが、私が顔も合わせようともしないため、錆兎の方から腕を広げてくれた
今すぐにでも…優しく包まれたい
でも…私の身体は言う事を聞かない。
「来ないのなら俺から行く」
錆兎は私を優しく包み込むと、耳元で「好きだ」と囁いた。
嬉しかった…。
温かい錆兎の体に包まれる事が幸せで、たまらなかった…
けど、その錆兎の言葉の後に私の口からは「嫌い…離れて…」と出てしまい、そこでやっと私は気付いたのだ
あの鬼の血鬼術とやらはこの事なのかと。。
思ってもないことを言ってしまう自分が嫌でたまらない…きっと彼を傷つけてしまっているだろう…私も悲しい気持ちでいると、錆兎も一瞬悲しそうな顔をした気がした。
「嫌い?それは嘘だな。俺にはわかる」
でも、すぐに私を見つめて微笑むと内心照れているのもお構い無しに、顔を近づけてくる錆兎。
「やめて…」
本当は嫌なんて思ってもないのに彼の胸板を押し返し、いやいやと首を振る自分に苛立つ。
「錆兎には真菰が居るんだから…私は」
「…。」
こんなこと思ってもいなかったのに…。
いや……
本当は心のどこかで思っていたのかもしれない錆兎と仲良しの真菰のことを…
錆兎にとって真菰は、私とは“ 違う仲“だとはわかっていた。けど…。。
…
『私は…』の先を言いあぐねていると、錆兎が心配そうに私を見つめてきた
「俺にそんな事言うなんて…ナナシは不安なのか?」
曇りなき眼を向けてくる錆兎が、何も言えないでいる私の髪を優しく撫でた
「安心しろ 俺はこの先もお前以外の女なんて目に入らない。それくらい好きだ」
気付けば優しく笑う彼に抱き締められていた。
「錆兎、嫌い…」
「あぁ、分かってる」
錆兎の優しさに、涙が溢れる。
そして私は術が解けていくかのように
自分の言葉が溢れていく
「ううん。錆兎、愛してる…」
「やっと素直になったか」
微笑む錆兎に身体も、心も
包まれていった