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□執着
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「どうだい?列車に取り込まれる気分は」
今…この瞬間
魘夢と名乗る黒髪の鬼は、人間であるナナシを生捕にし、“無限列車”の中に取り込もうと張り付けにしているのだった。
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ナナシはごく普通の村の女で、たまたま都に住む姉に会いに行くために列車に乗ってしまったのが事の始まり
車内で切符が切られたと同時に深き眠りにつき、とても良い夢を見ていたナナシだったがいきなり知らない誰かに起こされて目を開けた。
その時、目の前に広がる光景はまさに地獄絵図
目覚めた時、列車内は赤黒い血で溢れかえり、先程まで一緒に乗車していたはずの人達が、表現できない程の哀れな姿になって至る所に転がっていたのだ
これを地獄絵図以外に表現するならなんなのか
ナナシは既にもう悲鳴すらでない状態だった。
「おはよう、やっと起きたね」
「貴方は?…」
「俺?…俺の名は魘夢。君はたしか…ナナシだね?」
何故知ってるの?
…と聞くよりも早く、いきなりその男に両手を掴まれ、かなりの力で押し込まれていく
もうナナシの脳は混乱で思考が付いていかない。
「ちょっと大人しくしていてくれるかなぁ?」
「いや、何を????!」
「ナナシ…お前は今日、俺と生きたまま列車の一部になるんだよ」
すると魘夢はニタァと笑い、先程よりも力強くナナシの手を列車の壁にめり込ませたのだ。
「い、痛い!!」
生きたまま列車の一部にしようとしている魘夢と、少しづつ列車との“融合”が始まってしまったナナシ
手足が、少しづつ列車に飲まれていくことに恐怖が止まらなかった。
「何故…、私は人間でいたい!!」
「人間は脆くて、弱い生き物なんだよ。それなら俺と一緒に無限の命を与えられた方が俺はよっぽど楽しいと思うけどなぁ」
列車の一部となりゆくナナシの身体
ナナシはなんとか取り込まれるのを阻止しようと、何度も手足を動かしもがく。
「そんなに動いたって無駄だよ、そんなに列車の姿になるのが嫌なのかな?」
「何故こんなことを…」
「質問に質問で返すのはいやだなぁ。俺が質問したんだからちゃんと答えようね?」
「…私は!!…私は私でいたい」
徐々に列車に飲まれていくナナシを見ながら、魘夢はニタァと笑いを見せていた
「いいねぇ、その顔…震える声も、俺は好きだよ」
「…嫌ッ…。」
「姿形がこんな哀れな列車になってしまうなんて辛いよねぇ、嫌だよねぇ?、でも…俺と永遠に一緒に居られるんだから 嬉しいよねぇ?」
ニヤニヤと笑う魘夢は、列車内に取り込まれゆくナナシの顔を掴み、強制的に自身と目を合わさせた。
「ふふふっ…本当にいい顔してる。そんな怖がる必要はないよ?中には“俺”も居るから」
そして完全に身体全てが取り込まれたナナシを見て、満足そうに魘夢は頬を紅くした
「やっと一緒になれたね。もっと…もっと心も身体も俺と“融合”して、無限の時を共に過ごそう…」
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