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□託された者
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暫く無言で雪道を歩いていたが、何か話さなくてはと気を使ったナナシは、歩きながらも無一郎に声をかけた。
「……私はナナシです。お館様から聞いてあると思いますが、…元雪柱です」
無一郎は頼んでもいない自己紹介が始まると、そんなに歳上にも見えない彼女をチラッと見て、ため息を落とす
「元柱ってことだけど、大丈夫?」
「え?」
「なんか弱そうだけど」
なんな弱そうと言われたナナシは、引退してから鍛錬をしていない事が見抜かれているようで、心臓部がズキリと突かれたような感覚になった
「すいません…とりあえずお館様が仰っていた通りに山頂までは連れて行きます」
ナナシは申し訳なさそうに彼と目を合わせようと横を向いたが、無一郎は興味なさそうに無表情で歩いているだけだった
「で、山頂に何があるの?」
無表情で何考えているのかさっぱりわからない彼、無一郎がいきなり足をピタリと止めたのでナナシもその場に足を止める
「えっと、山頂には心から会いたいと願う人に会えると言われる想いの間があります。」
「……なにそれ」
「…何それって…うーん。。そのままです…」
「僕は別に誰も会いたい人なんて居ないけど」
冷たい目線を送ってきた無一郎に、ナナシは肩をすくめた
(お館様は何がしたいのですか…?…この無一郎さんって、なんか難しい…)
そんなこんなで山頂にある、閉鎖された御堂に辿り着き、二人は重い扉を開けて入り込むと、中心にある鏡を覗き込んだ
「こちらです」
「この鏡が、何?」
「私は以前…ここで死んだ兄に会えました」
「……。」
無一郎は言葉を発さなかったが、
ナナシを見て、何かを考えたようだった。
そして、無一郎が鏡の前に立ち、何かを思い詰めたように立つすくしてたその時
鏡の中から無一郎が出てきたのだ
「え…。そんな……!私の時はしっかり兄が出てきたのに…」
驚くナナシだが、
無一郎は驚く事もせず、鏡から出てきた『自分』に話しかけ始めた
「別に…会いたくなかったけど。兄さんが僕に会いたかったって事?」
ナナシは無一郎に『兄さん』と呼ばれた瓜二つのその人影に、目を開く
「兄さん…?」
「…兄さん。僕には双子の兄が居たんだ。僕は話したい事なんてないんだけどね」
無一郎の悲しそうにも見えるその顔をみたナナシは、事を察して一人御堂の外へと出て行ったのだった
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