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□託された者
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「これ…なんだっけ…」
静かに降り落ちる雪を手に乗せ
男は無表情で言葉を発した。
人の手に落ちた雪の結晶は、その暖かい体温で静かに水へと変わってゆく。
この地方一帯では『雪』が降るのは珍しいから無一郎にとってはその冷たい結晶が気になる物なのか…それとも記憶の問題なのかは誰にも解らない
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三日程雪が降り続き
産屋敷家周囲は瞬く間に銀世界へと変わっていった。
「無一郎、そんなに雪が珍しいのかい?」
「はい、お館様…」
お館様と呼ばれた男は、二人の女性に支えられながらも屋敷の縁側へ進んでいき、そして降り落ちる雪を肌で感じとる。
「綺麗なんだろうね、きっと」
「はい……とても…」
「そうだね。もう…ナナシが来るから雪が積もったのかな」
「ナナシ?」
無一郎は聞いたことの無いその言葉に、不思議そうに首を傾げる。そんな彼を見てお館様と呼ばれた男は優しく微笑んでいた
「無一郎は会った事ないからわからないね。彼女は雪の力を使う子だよ。ほら…もうすぐだ」
男の言葉と同時に、一瞬吹雪のような冷たい風が通りぬけたと思った
同時にフワリと雪のように少女が舞い降りてきて、地に膝を付けお館様と呼ばれる男に挨拶をした
「よく来てくれたね、ナナシ」
「お館様、あまね様、お久しゅう御座います…」
雪のような淡い色の羽織を靡かせた彼女は顔を上げ、挨拶を終えた。
「ナナシ、君を呼び出したのは他でもない。彼、無一郎と共に雪怨山に行って欲しいと思っているんだ…」
ナナシと呼ばれた女は、目を見開き、困った様子を見せ始める
「…私はもう柱では無いので…彼を一緒にあの山に連れて行ったとしても、無事でいられるか…」
「大丈夫。無一郎は強いから」
お館様と呼ばれる男は、無一郎と目を合わせ優しく笑う
無一郎は何一つ理解できないどころか、何故何のために見知らぬ山に「元柱」なんかと行かなくてはならないのかわからず、眉間にシワを寄せて考え始めるが
答えは出なかった。
無一郎はただのお館様の命令である
との事だけでナナシの横を着いて歩き出したのだった