□儚い夢
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……あの日から変わらないこの部屋の景色。



変わるのは窓からの景色と
お前の為に飾ってある花だけだ……





……私物化……と呼ばれる現実。




俺はこの静かな部屋に置かれたベッドに腰をおろした。





……あぁそうだ、今日は黄色、
黄色い花を持ってきてみたんだが。





どうだ?……見えてるか?





この色、お前好きだったろ?







俺は目の開ける筈のない名無しさんに見せるように、黄色い花を花瓶に入れ換える




二日前に持ってきた、空色の花は枯れて散り落ちていた



……。









「なぁ…名無しさん…………」




俺は動くはずのない名無しさんの右手を強く握る




動く事のない体だが





一生懸命に
小さく息はしてくれている



それだけで俺は安心できた。





「…おい…名無しさん……」




何度名を呼ぼうとも反応のないお前


『意味のない』その言葉を言われたらそうなのかもしれない




だが、俺は意味ないなど考えた事はなかった。





こうして名無しさんは
小さくても息をしている。



延命装置を通してでも
息をして生きている。



だから




その呼吸を故意に止めるなんて絶対にできるわけがない。





例え何日このままベッドにいようとも


例え何年その瞳が俺の姿を映す日が来ることがなかったとしても




俺は…………



「………いつまででも…待ってる」





……。








ガチャ



ドアノブが回され、静かにこの部屋に入り込んで来たのは、よく仕事を共にする金髪の奴だった。




「失礼する。リヴァイ、俺だ」




「……なんだエルヴィンか、用があるならさっさと言え」




エルヴィンは近くに置いてある椅子に腰をかけ、俺を真っ直ぐ見つめてきた。






「上官方が、名無しさんを次の作戦の犠牲者と共に供養すると決めた」




「…………あぁ、さっき直接聞いた」




……そんな事を説明するために来たのかよ……。



別にさっきの会話で理解できねぇ程俺の頭は悪くない



それより……供養ってなんだよ




「7ヶ月も前の作戦で、巨人に潰されてから寝たきりだったな。名無しさんには身内もいないのだから、引き渡す先もない。それに本部の医療品の数も限られている」




……






こいつも奴ら同様狂ってやがる





名無しさんは必死に生きようと
今も息をしてんだろ






ふざけんな……




俺は悔しさと苛立ちから、拳を今までにないくらいの力で握りしめた。





「リヴァイ……、名無しさんがお前の最愛の女…ってのは、皆が知っていた。お前の大切な存在だからこそ七ヶ月も目を瞑っていた所もあるだろう。だが、他の傷を負った兵士の末路をお前も何度も見てきただろ?」







……





……俺は知っていた





巨人と向き合い全力で戦った奴ら




希望のない者……すなわち、もう動けない奴ら



そいつらを痛みから救うことも、俺達生還した兵の使命。




俺も、この手で何度も…。




苦しんでる仲間を少しでも楽にさせたい一心だった…


……




だが……




こいつには……




名無しさんには、できねぇ




少しでも可能性があるのなら



2度と言葉を交わす事がないとしても、まだ隣にいれるのなら……俺は。
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