I fly in the Dreams.

□Dream T
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「…そうだ、オマエ、空を飛びたいと思ったことはないか?」
「そ、空?」
 ……そんな事を考えたのはいつだったか。思い出せない。そんなファンタジーな事を考える暇は無かった、否、考えられなかった。その日その日をどうやってやり過ごすかに集中し過ぎてしまっていて。
「…あ、あ、りま、す。青い空も、曇り空も、黒い絵の具で塗り潰したような夜空や、あ、赤いルビーを空一面に敷き詰めたような、夕暮れの空、と、か、飛んでみたい、って、か、考えたこと、が、あ、って」
 次第に早口になっていく。
「空を飛ぶってとっても素晴らしいことだと思うんです、あの、その、きっと全身に感じる風とか視界いっぱいに広がるいつもとは違う景色、宙に浮く感覚なんて、とても人間の私では味わえなくて、それはきっと夢でも味わえないような、いや、味わえるんでしょうけども、」
 そこまで話してハッとした。
――――喋り過ぎた。
 やってしまった、と俯く。目眩がして、目の前が暗くなっていく。
「…ふ、あっはははは!何だ、ヒカル…ちゃんと喋れるじゃないか、自分の言葉で!」
 へ、と間抜けな声が漏れた。
「いいぜいいぜ、面白い。気に入った!ヒカル、空を飛びたいんだろ?」
「っ、は、い」
 まさかこの歳で空を飛びたいか、という質問にYesと答えるとは。心の中で苦笑する。

「さあ、行こう」

 そう言ってナイツが右手を差出す。戸惑いながら、ヒカルは自身の左手をナイツの右手にぴったりと重ねた。
 その瞬間。眩く暖かい光が二人を包む。あまりの眩しさに咄嗟に目を瞑った。
 自分の意志とは関係なく瞼が開く。
「え、え…っ?」
 視界に広がる景色はいつもより少し高い。そして一番の疑問は、
「う、いてる…?」
 足が地面に付いていないのだ。ふわふわと浮いている感覚が不思議で、思わず首を傾げた。
「ヒカル、自分の手を見てみろよ!」
 かなり近い場所でナイツの声が聞こえ、驚き目を見開いた。が、ナイツは何処にも居ない。とにかく言われるがままに、ヒカルは自分の手を目の前へと持ってきた。
「う、うわああっ!?」
 思わず大きな声が出てしまう。その手は、まさにナイツの手だ。自分の手では無い。手首が無く、腕と手が分離ている。
「なに、な、な、っこ、れ」
「それはな、ナイツの能力――――――デュアライズじゃ」
「でぃ、でぃあら…?」
「違う違う!デュ、ア、ラ、イ、ズ!」
 ナイツがちっ、ちっ、ちっ、と人差し指を左右に振る。するとやはり、自分(?)の人差し指も左右に振れた。
「デュアライズとは、ビジターと同化する能力じゃ…どれ、わしが飛び方を教えてやろう。…お主の説明だとわからんじゃろうからな」
「オイ、じーさん…!」
 ナイツが少々むすっとしたような声で反論しようとする。
 気付くとナイツは隣におり、ヒカルはナイツの隣で宙に浮いていた。ナイツの動きと連動している。
「ではまず、互いの意思を一つにするようイメージしなさい。視界を一つにするんじゃ」
 成程、会話する時はこの状態でも良いが、飛ぶ時には確かに不便だ。オウルの指示通り、自分の意思をナイツへ送るようイメージして、同調させようとする。
 すると、ナイツが隣から消えた。意思が一つになり、自分がナイツと同化しているらしい。
「よし、出来たな?」
「は、い」
 オウルに問われ、困惑気味に答える。
「ではいよいよ空を飛ぶぞ……準備はいいか?」
 ヒカルは躊躇いがちに頷いた。
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