機動戦士ガンダム ジオンクロニクル0079

□バストーニュ発
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3月23日

バストーニュ市街地
簡易指揮所


連邦軍戦車中隊が駐留していたバストーニュの街は、レーべ少佐率いる4機のザクに制圧され、既に平穏を取り戻しつつあった。
頭部ユニットに被弾。
大破した俺のザクはガウに収容され、予備パーツを使っての修理が突貫工事で行われている。
バストーニュを離脱した連邦のMS。
ザニーと呼ばれる新型の行方はようとして分からず、連邦軍守備隊がザニーの情報を消去・破壊した事で、機体の名前くらいしか情報は得られなかった。
だが連邦軍のMSは確かに進化していた。
カリーニングラードで遭遇した時よりも、動きが滑らかになっていたし、何より装備がより実戦向けのマシンガンになっていた。
片手で扱えるサイズでありながら、その威力は一撃でザクの頭部ユニットを破壊する。
油断も隙もあったもんじゃない。
そんな印象は、少なくともカリーニングラードで遭遇した時には感じなかった筈だ

「ここにおられましたか。
どうぞ。
頭部に被弾した者同士、仲良くコーヒーブレイクなど如何ですかな?」

そういってコーヒーをテーブルに置いたアシュレイは、一足先にカップに口をつけた。
頭部に被弾した者同士。
まぁ確かにそうだ。
アシュレイも真っ暗闇で大変だったなぁと改めて思う

「もう頭を撃たれるのはごめんだ」

「同感です」

苦笑いして見せるアシュレイの顔を見ながら、俺もカップに口をつけた。
この味なら分かる。
ブルーマウンテン。
最近はコレばかり飲んでる気がする。
最前線でブルジョワな事だ。
ブルーマウンテンの酸味を味わいながら、ふとユミカの顔がよぎった。
俺の胸の中で泣き叫んでいたユミカ。
いま何をしてるのだろうか。
昨日から顔を見ない

「なぁアシュレイ。
ユミカはどうしてる?」

「え?
お嬢ですか?
お嬢なら今日もアンリを引っ張り回してますよ。
今頃はアルデンヌの森をザクで偵察中かと」

そういえばアンリの姿も昨日から見てない。
アンリが付いていれば安心だが、ユミカの顔を見れないのが何故か寂しく思えた。
昨日まで当たり前の様に側に居た顔や声。
それが1日ないだけで、こんなにも寂しく思えるとは。
なんだか不思議な気持ちだ

「アンリが居るなら大丈夫だな。
アシュレイ。
俺のザクだが、戦線復帰は出来るかな?」

「なんとも難しい質問ですね。
お嬢にも言われましたが、ザクの頭は高いそうですからなぁ」

「だよなぁ……」

既にダルフールと第1中隊はメッツを制圧。
欧州制圧軍の先鋒もアルザスを抜けてパリに向かって快進撃を続けているばかりか、ヨーロッパ方面軍の主力も地中海に連邦軍を追い落とす勢いだという。
それが事実だとすれば、俺は単に、バストーニュまで頭部ユニットを破壊されに来た様なものだ。
なんとも情けない話だが、現にヨーロッパ戦線は南に西に。
どんどん俺たちを置き去りにしていくばかり。
そりゃあ溜息の一つも出る

「ところで中尉。
お嬢と何かあったんで?」

アシュレイの突飛な話題に、思わずコーヒーを口から吹き出しそうになる。
この親父は何を急に。
俺は口にあったコーヒーを飲み干してから、唐突すぎる斬り込みをかました親父の問い掛けに答えた

「何もないさ。
何を急にユミカの話を出してくる。
何を期待してるんだ」

俺の反応が面白かったのか。
アシュレイはニヤけた顔で俺を見ている。
何だか見透かされた様な気分だ

「いや。
お嬢と中尉なら良い組み合わせ。
いやお似合いですよ。
理想に燃える新米少尉と経験豊富なベテラン中尉。
絵になるじゃありませんか」

「そんなんじゃねぇよ。
そんなんじゃ……」

アシュレイは俺の反応に腹を抱えて笑い出したが、俺は全く笑えなかった。
理想に燃える新米少尉。
少なくとも、ユミカが背負う物を知ってしまった以上、俺にはそう思えなかった。
ユミカが理想に燃える新米少尉?
バカな…。
ユミカは、俺の知るユミカは、そんな簡単な言葉で片付けて良い様な人間じゃない。
ユミカは……。
ユミカは違う。
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