中編小説

□狗の肌
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安巳の所へ何人か人を変えて当てがってみたものの、全員が一週間と経たないうちに挫折した。


曰く、抱く抱かれるの話以前に手のつけようがないと。

触れようとすれば叩かれるか、殴られるか、引っ掻かれるか、蹴られるか

どれにしたって容赦ないらしい。

あのイヌはそんなに凶暴だったかと些か疑問にすら思う報告だった。

そういう訳で再び俺が安巳の元へ向かう事になった。







「・・・鷹木。鷹木が来たぁ。
逢いたかった」

「久しぶりだな、イヌ」

足音だけで俺と分かる辺り、こいつも大概ぶっ飛んでやがる。

目隠しに手足を縛られた状態でも安巳は口元を嬉しそうに綻ばせた。

「散々暴れたらしいな」

「俺はあんた以外に抱かれる気はない」

「そんなんはどうでもいい」

「鷹木。こいつ、外せよ。
あんたを見たい」

「暫くそのままでいいだろ」

「お願い。鷹木。鷹木。
鷹木、外して。これ、取って」

狂ったようにすすり泣くイヌを目の前に、俺は突っ立っていた。

目隠しが涙で濡れて一部色が濃くなっている。

手足に巻かれた縄がぎしぎしと軋んでいる。

気付くと俺は、其れ等を外していた。

あまりに哀れなイヌの姿に、内心、同情でもしたのか。

「たかぎぃ。逢いたかった」

甘えた声。
赤い頬。
濡れた瞳。

それ以外にも俺を誘う要因は幾らでもあった。

安巳に抱きつかれ、キスをする。

初めてこいつに触れた。

それからは俺の脆い理性は吹っ飛んだ。




俺は安巳を抱きながら

こいつも人間なのか

とぼんやり考えていた。
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