中編小説
□狗の肌
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「・・・おい、イヌ、起きろ」
「何、鷹木」
まだ寝足りないというように、のそりと起きる白いイヌ。
左胸の赤菊は今日も真赤に咲いている。
「お前昨日何かやらかしただろ」
「何かって、何」
あくび混じりの声にイラつく。
「津田が御立腹だった。
再調教を任せた筈が、逆に噛み付かれたって俺までとばっちりだ」
「あぁ、だってあの豚、汚い手で俺を触ろうとしたんだ。
叩かれて当然だと思うけど」
「いいか、お前の主人は今お前が散々貶した津田だ。
何度も言わせんな。
次、従わないならお前を殺せって言われてんだよ。
煩わしいから俺の手汚させんな」
「それならあんたに殺されたい」
「人の話聞いてたか?」
「・・・俺は御主人様の言うコトなら何でも聞く」
「は?なら最初から「けど、あの豚は俺の主人じゃあない。
でも、あんたのイヌにならなってもいいよ」
この前と同じ台詞。
くそっ、どうにかしてこいつを懐柔させないと余計面倒な事になる。
「あんたに抱かれたい」
「またそれか」
「俺は本気だよ」
「・・・断る。
そんなに誰かに抱かれたいなら代わりを寄越すからそいつとやれ」
「鷹木っ」
ガシャガシャと首に繋がれた鎖を気にもせず、イヌは俺に縋り付こうと必死で鳴き、手を伸ばす。
俺はそれを見て見ぬフリで部屋を後にした。