中編小説
□狗の肌
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左胸に一輪の赤菊を携えて
首輪を付けられ狗吠する狗
「可愛がって」
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金持ちにの家の離れに飼われた
‘‘イヌ”は今日もよく鳴く。
「あは、今日も来たんだ。
律儀だなぁ。鷹木」
俺の足音を聞きつけた途端これだ。
「うるせー。吠えるな、イヌ。
仕事じゃなかったら来ねぇよ」
何処から手に入れたかは知らない。
雇い主にこいつを見張っていろと言われ、渋々毎日こうして様子見に来ている。
「本当は俺の事、抱きたいんじゃないの」
「駄犬が。
お前を抱くのは俺じゃない。
お前を買ったご主人様は他にいるだろ」
「俺は彼奴の飼いイヌになったつもりはない。
あぁ、でもあんたのイヌにならなってもいいよ」
「生憎、俺はネコ派だ」
「試してみる?」
そう言ってイヌこと安巳は繋がれた首輪を気にもせず、俺に近づいて来る。
一方の俺はあと一歩安巳の手が届かない所へ退いてみせた。
「意地悪。
それとも、俺を抱くのが怖いの?
あんたを雇ってるあの豚みたいなおっさんに殺されるかもしれないから」
「まさか。
あとお前、自分の主人を豚呼ばわりすんな。
殺されるぞ」
「だから俺は「うるせーって。
いい加減黙れイヌ」
少し牽制すれば直ぐに大人しくなる。
元の場所へ寝転んだ安巳は俺の肩越しに空を見つめているようだった。
飼い主に捨てられた狗はどいつもこんな感じなんだろうか。