砂漠の花

□第3話
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夜明けの澄んだ空気がひやりと心地いい朝だった。
“イブキ先生”と呼び親しまれている初老の男は、窓際で小さくため息をついた。

脳裏に浮かぶのは、マイの大泣きする姿だ。
普段妙に落ち着いて大人びたマイの、初めて感情を露わにする姿だった。
縋るように自分にしがみつく小さな手の感覚が、まだ鮮明に思い出される。


マイは、ある日突然この施設にやってきた。
いつも通り施設の子どもたちが外で遊ぶのを眺めていると、不意に誰かが入口の戸を叩く音が室内に響いた。
入室を促して入ってきたのは、職員に連れられた小さな女の子だった。
一切の記憶をなくし、見た目の年頃にそぐわない大人びた言動と仕草をするちょっと変わった子ども。
それが、マイの最初の印象だった。

記憶がなく、身元を割り出すこともできなかったことから、孤児であると結論づけられた。
マイは、周りの子の面倒見こそよかったが、一人本棚の陰で本を読んでいることが多かった。
子供たち同士仲が悪いわけではなかったし、むしろ子どもたちはさりげなく面倒を見てくれるマイに懐いていたが、やっぱり一人でいることが多かったマイ。

ある日、突然施設を飛び出していったマイは、我愛羅と出会った。

里の兵器となるべく守鶴を憑依させられた小さな男の子。

イブキは我愛羅のことを知っていた。
昔、里の上役だったことがあったからだ。
幼い我愛羅に憑依させられた守鶴の力は次第に、宿主である我愛羅の感情に呼応するように暴走を始めた。
その暴走の犠牲になった人物は最早1人、2人ではなかった。
恐ろしい力に、周りの目はだんだん冷ややかになっていく。

記憶を無くし、馴染めないのか 1人過ごしていたマイ。
守鶴の力の暴走により、里のすべてから恐れ疎まれる孤独な我愛羅。

何か惹かれるものがお互いあったのだろう。
出会ってから2人が毎日一緒に遊んでいたことを、イブキは知っていた。
お互いがお互いの心の拠り所になっていたのか、毎日毎日、それこそ雨の日も風の日も一緒に遊んでいた。





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