サクセスロード

□栄枯盛衰
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バシリ。音を立ててボールがキャッチャーミットへ収まった瞬間、津々家バルカンズのシーズン最下位が決定的なものとなる。それでもラストバッターは悔しそうな表情を見せる事なく淡々とベンチへ足を進めるだけ。
いや、バッターだけではない。ベンチに居る選手は大半が漸く終わったと言わんばかりにさっさとベンチ裏のロッカールームへと引き上げていく。悔しそうにしているのは精々数名。それも全員がシーズン終盤にお試し枠として二軍から上がってきた期待の若手、そして今シーズン大卒ルーキーながら一年間一軍に帯同して途中から抑えを任された木賀のみ。
「…栄枯盛衰、とはいえ酷いな。」
あれが数年前までは常勝と謳われたバルカンズか、と対戦相手であった猪狩カイザースの
監督を務める猪狩守は溜め息交じりに溢す。8年前、猛田慶次(現在はレッドエンジェルス傘下ダブルスター・イエローイーグルス所属)外野手に炭石直哉(〃レッドエンジェルス所属)捕手、そして抑えに河原愛美(〃引退)らがアメリカのレギュラーリーグへ挑戦するまではカイザースやバスターズと優勝争いが当たり前だった。それが今では最下位が定位置となり、当時のレギュラーで唯一残っていた芦谷は前年にFA権を行使してパ・リーグのソフトバンクホークスへ移籍してしまった。無気力とまでは行かないが、勝利への執念という物を全く感じない。このままではあの若手もどこか他のチームへと移ってしまうだろう。
「…まあ、僕らには関係は無い事だけど。」
決して僕たちに起こり得ないとは言えない事であるが故に、こっちは反面教師として対策をしなくてはいけない。そう心の中で固く決意して、ベンチから立ち上がる。
そして一年間応援してくれたファンへ、CSに向けた挨拶をする為にグラウンドへと足を踏み出した。
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