異世界への扉
□お酒
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「……はぁ、」
揺すっても起きないため、仕方なく自分のベッドに下ろした。
「俺は井宿の部屋にでも泊めてもらうか」
そんなことを考えながらベッドの端に腰掛け、眠る明日香を見つめた。
─『私ね、柳宿が好きだったんだ』
「…ほんま、女ってやつは」
─『でも、美朱が好きみたい』
「アホやわ」
─『翼宿を好きになればよかった』
「こんなええ男、なんで好きにならへんのや」
「俺は、お前しか見とらんのに」
そっと撫でた唇に、誘われるように顔を近づける。
『ん…柳宿、』
あと、数ミリのところで、他の男の名前を言われ、サッと距離を取った。
「何してんねん、俺は……今日飲んだ酒、いつもより強ないか…」
『……』
明日香の額にキスを落とし、立ち上がった。
「これで許したる」
翼宿が部屋を出ると、丁度自室に戻るであろう柳宿と出くわした。
「あら、翼宿。こんな時間にどこか行くの?」
「……」
怪訝そうな顔で柳宿を見る翼宿。
「な、何よ」
「…なんでもあらへん。どこかの迷惑な女が、俺のベッド占領しよってん。井宿んとこ行くんや」
「迷惑な女?」
「せや。お前が部屋に運んだれ」
「はぁ?」
翼宿の部屋に入ると、明日香が翼宿のベッドで寝ている事に、柳宿は目を見開いた。
「いきなりきよって、酒飲んだらそんまま寝よったわ」
「……なんにもしてないでしょうね」
いつもより低い声になる柳宿。
「アホか。俺は女は好かん」
「…そう。迷惑かけたわね。じゃ、この子連れてくわ」
柳宿が抱き抱えても起きる気配のない明日香に、柳宿は少しイラつきを覚えた。
翼宿の横を通り過ぎようとした時、翼宿がボソッと声掛けた。
「あんま泣かせるよーなことしとったら取られるで」
「………あら。女は好かんじゃないの」
「…そいつは別や。」
「…」
「って、ゆーたらどないする」
宣戦布告のように笑う翼宿に柳宿も何も言わずに同じように笑い返し、部屋を出た。
「…なんやねん。余裕カマしよって」
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