異世界への扉

□不器用な想い
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『ぁ〜〜〜……』


蚊の鳴くような声で項垂れるお昼休み。
両サイドには慰めるように並ぶ美朱と唯。


「ま、まぁ、まだチャンスはあるんだし!」

「頑張んなよ!」

『ふたりはいいよぉ…もう付き合ってるんだもんんん』

「付き合ってる、付き合ってないは関係ないよ!気持ちの問題よ!」

「唯ちゃんの言う通り!当たって砕けろ!挑戦あるのみ!」

「美朱…それ、背中押してるように聞こえない」

『砕けるならやらないいい』

「はぁ。やるもやらないもあんた次第だけどさ、手そんなに怪我してまで作ったのに諦めるの?」

『……やだ』

「じゃぁやらなきゃ。私、彼はあんたのこと好きだと思うな」

「うんうん!私も」

『なんで…?』

「「……内緒!」」

『???』



……。


そして、渡せずに…


『放課後になってしまった』

「じゃ、頑張って」

「頑張ってね」


唯と美朱に背中を押されて、学校を出た柳宿を追う。


「……」

『……』


スタスタと歩いていく彼。
気づいてるのか気づいていないのか、数メートル後ろを追いかけるように歩いていく。

しばらくした時、急に立ち止まった柳宿がため息をついた。


「はぁ……いつまでこの距離保ってんのよ」

『き、気づいてたの』

「当たり前でしょ?なんの用」

『あ……ぅ』


柳宿の元に駆け寄り、


『ぃ、一緒に、帰ろ』

「……」


柳宿を見てみると、キョトンとした顔をし、突然吹き出した。


「あっはは!なに、あんた…それ言うの戸惑ってたの!?」

『そ、そうじゃ、ないけど!』

「可愛いとこあるじゃない。ほら、早く帰るわよ」

『……うん』


隣を歩くことすら今日は緊張してしまう。


『…ぬ、柳宿』

「んー?」

『今日、チョコ貰った?』

「…もらってない」

『え?』

「なによ」

『いや…渡されてたから』

「……」

『お昼休みの終わり!たまたま見かけちゃって』

「そう」

『…受け取らなかったの?』

「うん」

『……どうして』

「…好きな人が、いるから」

『……え』

「でもねぇ、その子誰にも渡さないって。こりゃ振られたねぇ」

『……』

「その子ね、馬鹿でドジで不器用で…いっつも自分より人のこと優先で」


聞きたくないな。
好きな人の好きな人なんて…。


「だけど、素直で可愛くて、みんなから愛されて、守ってあげたくなるような」


─「彼、あんたのこと好きだと思うな」

唯のバカ。
どこをどー見てそう思ったの。


「そんな、あんたが──」

『柳宿!』

「…な、なによ」


失恋覚悟だ!


『これ!受け取ってください!』


目の前に出したのは、少し不格好なチョコ。


『…あ、あの…義理、なので』

「…フッ、メッセージカード。思いっきり【好きです】って書いてるのに?」

『…あぁ!取るの忘れてたっ』


引っ込めようとした手を捕まれ引き寄せられた。


「あーぁ。こんなに絆創膏貼り付けて…」

『……本命です。いらないなら、捨ててください』

「…あんたはねぇ、ちゃんと人の話聞いてたぁ?」

『……なにが?』

「はぁ…付け加えるわ。人の話聞かなくて、馬鹿でドジで不器用。
だけど、素直で可愛くて、愛されてるあんたの事が、あたしは好きよ」

『……』

「今日1日、あんたのチョコをどれだけ待ってたと思ってるの」

『ご、ごめんなさい』


頭を引き寄せられた、額にキスされた。


「とりあえず、これで許す」

『…』

「顔真っ赤」

『……』





『柳宿』

「うん?」

『大好きだよ』

「うん。あたしも」



END・2020/02/18


「結局、貰えなかったの翼宿さんだけでしたね」

「張宿、お前は!…井宿と軫宿のは知らんが、張宿のは本命ちゃうからな!」

「そ、それが…」

「どうしたのだ?張宿」

「メッセージカードが入っていて」

【ずっと前から好きでした】

「な、なんやとおおおおお!」

「翼宿、残念だったな」

「くそぉ………柳宿のチョコ、奪ったる!!」


あっさりと返り討ちに合う散々な翼宿だった。


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