異世界への扉
□嫌って
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鬼宿たちと別れ、お祭りもそろそろ終わりになり家に帰る。
『楽しかったー。ね、柳娟』
「…え、あぁ。そうね」
『……柳娟?』
「ん…ん?なに」
『どうか、した?なんだか上の空で』
「いや。ちょっと、疲れただけよ」
『…そう。ありがとう。付き合ってくれて』
「うん」
上手く会話が繋げない。
あの時、星宿様との会話が頭を回る。
─「戦争が起こる。避けられぬことだ。激しい戦いになるだろう」
勝ち目はないと言っていた。
それは、七星である自分の死をも暗示しているようだった。
……。
「……」
『…ねえ、柳娟』
「…え」
『なにか、言いたいことある?』
「え…」
『星見祭りの夜から、あまり話さなくなったよね。なんだかよそよそしくなって』
宮廷に帰る前の夜、布団の上に正座していた明日香がそんなことを聞いてきた。
「…実は、明日…宮廷に帰る」
『え…明日?』
「戦争が起こる。とても激しい戦いだ。きっと、もう帰ってこない」
『柳娟…それって』
「きっと……死ぬ」
『……』
「……」
『…ねぇ、柳娟。聞いてくれる?』
「なに?」
『私ね…柳娟のこと、好きだった』
「っ…」
『ずっと、ずっと、好きだった』
暗くてよく見えないが、涙を流していることは、声でわかった。
『だから、帰ってきてよ。私のところに、生きて…』
「……無理だ」
『…どうして』
「あたしは…嫌いだから」
『……』
「あんたが、嫌いだから……。嫌いな人間のところに、帰りたいと思う?」
『柳娟、嘘でしょ…?』
「…嘘じゃ、ない。嫌いだ」
『っ…じゃぁ、どうして毎回帰ってくるの?別に、宮廷にいてもいいんでしょ?なんで帰ってくるの!』
「っ……!」
『りゅぅ…!』
勢いのまま、明日香の両腕をつかみ布団に押し倒した。
『りゅ…えん……』
「僕は男だ。お前が嫌いな男だ。このまま、無理矢理お前を抱くことだって出来る」
『……』
明日香の目から溢れる涙。
あの時と同じ顔だ。
人攫いに襲われてた、あの時と──
「…ごめん。僕は男だ。心も、体も……僕を嫌う理由なんて、それで十分だろ」
嫌って欲しかった。
でなきゃ、彼女が今後傷つくことが分かってた。
今は、傷つけてでも嫌って欲しかった。
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