異世界への扉

□お酒
1ページ/4ページ



「うかうかしてると、あたしが美朱取っちゃうわよ〜?」

「お前が?」

「そ……気づいたのよね。あたし、男として、美朱のことが好きだったの」


そんな会話が鬼宿の部屋から聞こえた。
聞くつもりはなかった。
たまたま通りかかったら聞こえたのだ。


『……』


月明かりが照らす回路を重い足取りで進み自室に向かう。
その途中、通りかかった翼宿の部屋。

コトっと何かを置く音がし、中にいるのだろうと分かった。
会話が何も聞こえない限り、ひとりなんだろう。

コンコンとノックすると、相変わらずのぶっきらぼうな声で「誰や」と聞こえた。


『私、明日香』

「……」


ガチャっと開いた扉から出てきた翼宿はほんのり顔が赤くなっていた。


『…飲んでたの?』

「おう。なんや、こんな時間に」

『部屋に戻る途中、たまたま通りかかっただけ』

「……なんかあったんか?」

『え?』

「顔に書いとる」

『…なにも。部屋、入っていい?』

「お、おお」


部屋に入ると、机にはお酒の瓶と飲みかけのコップ。


『最近、翼宿ひとりで飲んでない?柳宿たちの誘い断ってるみたいだし』

「俺かてひとりで飲みたい時あるんや」

『へー……失恋でもしたの?』

「ブッ」


イスに座り、再びコップのお酒を口に含んだ翼宿に問いかけると吹き出した。


『翼宿分かりやすー』

「お、お前なぁ!」

『私も、飲んでいい?』

「…おぅ」


コップを取り出してくると、お酒を注ぎ差し出してきた。


「この酒美味いで〜。俺のお気に入りや。ちょっと強いけどな」


と、チャームポイントであろう八重歯を見せながら笑う。


『…うっわ。ほんとに強い…』


一杯で軽く意識飛が飛びそうなくらい。
普段飲まないから多分そのくらい強く感じてる。
けれど、今の自分には丁度いいかもしれない。


『んで…翼宿は誰が好きだったの?』

「な…なんや、」

『んー、さっきの反応で察した』

「……なら、俺の気持ちも察しろや

『なに?』

「なんでもない!」


特に大した会話はせずに、2人してどんどんと飲み進めていく。


『私ね、柳宿が好きだったの』

「……」


強いとはいえ、結局3杯目を空にし頭がぼんやりとしてきた頃
何となく口走ってしまった。

翼宿も口に近づけたコップを机に戻し、明日香を見つめた。


『旅をしてる間にね、だんだんかっこよくなってく柳宿を無意識に目で追いかけてた。』

「……そうか」

『気持ちを伝えようかどうか迷ってたらね、さっき、聞いちゃった』

「……」

『柳宿…美朱が好きなんだって』

「え?」

『さっき鬼宿と話してた』

「……」

『……翼宿を、好きになれば…良かったな』

「!…な、なに言ってんねん!」

『だって翼宿、よく気がつくじゃん?体調悪いんかー?とか、誰かとなんかあったんかー?とか、よく聞いてくる』

「そ、それはや…」

『そーゆうのって、案外嬉しいんだよ』

「……俺は、」


翼宿が何か言いかけた時、コクンと目の前の頭が机に突っ伏した。


『……』

「…お前、マジか」


赤い顔をし、規則的な寝息を立てる明日香にため息をついた。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ