名もなき七星

□第七章
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『星宿、馬借りたいんだけど』

「またか?構わないが…いつもどこへ行っている」

『…周桜村だよ』

「周桜村?街外れの小さな村ではないか…なぜそこに」

『ちょっと用があって』

「最近、倶東軍がうろついている。柳宿を連れて行ってはどうだ」

『平気だよ!じゃ、馬借りるね』

「明日香っ…はぁ、」


あの日借りた羽織をもって馬のところへ向かう途中、柳宿に会った。


「あら、明日香。どこか行くの?」

『うん』

「…最近よく出かけるわね」

『夜には戻ると思う』

「そんなに遅くなるならあたしもついていくわよ」

『だ、大丈夫だよ。帰りは、付き添ってくれる人がいるから』

「付き添ってくれる人?」

『うん。それじゃまたね』

「…」


柳宿と別れて、馬に乗って周桜村に向かった。


「…あ。明日香さん」

『こんにちは。尹威さん、おじさんの具合はどうですか?』

「変わらずだよ」


この一ヶ月、何度か足を運んで会いに来た。
尹威さんのお父さんはあまり体がよくないみたい。


「いつもありがとう。俺一人じゃ、父さんと家の両方、面倒見きれないからね。」

『いえ、お世話になった恩返しです。

 お水汲んできますね』


いつもどおり、川に水を汲みに行った時、


ドサッ

『ん?』


背後から物音がして振り返ると、


『え…柳宿』

「…あら」

『あら、じゃないよ。何してるの?』

「いや…」

『…まさか、つけてきた』

「…当たり前でしょ?一人でこんなとこまで出てきて、危ないじゃない!」

「明日香さん?どうかした…その方は?」

『あ、いや…その』

「ご友人ですか?どうぞ中へ」

『え、えぇ…』




「明日香さんは、僕の妹みたいな感じで」


中で、出会った当初からの話を始めた尹威さん。


「最近、よく来てくれるんです。今は栄陽に落ち着かれているみたいで、安心しました」

「えぇ、今はあたしと一緒に住んでます」

「そうなんですか?」

『柳宿、誤解されかねない言い方やめて』

「あら、どうして?」

「仲がよろしいんですね。姉妹みたい」

『…』


そっか、尹威さんは柳宿を女性だとおもってるんだ。


「ええ、もう手のかかる妹で」


それから長い間話し込んで、日が傾いてきた。


「さ、そろそろ帰りましょうか」

『あ、うん』

「送りましょう」

「大丈夫ですわ」

『あ、今日は大丈夫ですよ。尹威さんの帰りが遅くなってしまいます』

「しかし、女性だけでは」

『柳宿はこう見えて、強いので』

「大丈夫です」

「そう、ですか…では、お気をつけて。またいらしてください」


馬を走らせて栄陽に戻った頃には真っ暗だった。


『ありがとう、柳宿』

「今度からはあたしも行くわ」

『え…』

「なによ。嫌そうに」

『んん…そうじゃないけど』


なんか、柳宿怒ってる…?



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