短編小説

□太陽の香り
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「あ、おいしいですねこの煮付け!」

「あらやっぱりぃ?今日ひのくんが来るからフ・ン・パ・ツ、しちゃったの!」

「ぼく、お母さんみたいな料理が上手な人と結婚したいなぁ」

「あら、今からでも遅くないのよ♡」

「おまえぇ!俺というものがありながらぁぁ!」


「……もうあえて突っ込まねぇ…」



なんかもう、実はここの子は桧で私は別の家の子なんじゃないか、とか思い始めるわ。
ため息をついている私の隙を伺い親父が煮付けをかっさらっていった。


「なんだゆず、今日は突っ込まないのか」

「私までその泥沼三角形に参加する気はねぇよ?」

「あら、分かってないわねぇ、最近のドラマでは四角関係に発展はざらよ?」

「家族間でやるやつがあるか!」

「韓流ならわりとありますねぇ」

話に入ってきた青年、桧はこの歳で銭湯をこよなく愛す筋金入りの風呂好き だ。

そして今日は冬なのに湯屋しみずオリジナルTシャツを着用している。





……なぜそんなものを作ったのかは聞かないでほしい…


父親の商売根性が斜め上へ向かっただけだ。
ちなみにこのTシャツの売れ行きは計五枚、桧が日替わりで着ます、と買っていった五枚しか売れていない。


「あら分かってるじゃなぁい、ひのくん」

「韓流なら青のピアニストから華麗なる遺産までなんでもござれですよ」


こんなところでキメ顔使うな美青年が。ウインク失敗してるぞ。
壁にかかった時計をチラと見、桧が申し出る。

「ごちそうさまでした、そろそろぼくはお暇しますね」

「お、もう帰るのか」

といったってしみずを閉めた後ご飯まで食べているのだからいい時間だ。

礼儀正しく食器を片付け流しへ置く。
流れるような動作はこの家へ来ている回数を思わせる。

「お風呂も堪能させていただきましたし、家にも心配をかけるので」

「おまえ、家あったのか…」

「やだな〜、ぼくをなんだと思ってるんですか〜」

照れたように明るい色の髪を掻く。

いや褒めてないから。

そう花を飛ばしながら言われても
てっきり森にでも暮らしてるのかと…

「そうねぇ、薫さんによろしく伝えておいてねぇ」

「いつのまに知り合い?!」

なに、母さん桧母と知り合いなの?!

というかコイツ人の子だったの?!

探る私に当の母はうふふ、と詳しく話すつもりはないようだ。


「じゃあ、ありがとうございました」

「おう!気を付けて帰りい!今露出魔がこの辺おるらしいからな!」

「そうよ〜かわいい子は食べられちゃうわよ〜」

「気を付けます」

男が食べられたらたまったもんじゃない、とは突っ込まず、爽やかな好青年の笑みを残してバタンと扉が閉まる。

「……」

桧の姿を見送りふと思った。


そっか…

当たり前だけどこいつにも家族がいるんだよな…


なにしろ裸とオリT姿しか見てないから生活感感じないし。


──そういやあいつの普段の生活、全然知らないなー…



年齢も分からない。


高校生、大学生…では無いような気がするが(今までの所業てきに)、制服姿や趣味など、年齢を連想させるものが何一つ情報としてない。

風呂が趣味と言われればおじいちゃんとしか思えないし…


彼について何一つ知らないことを自覚したとき、さっきまでとなりで夕食を食べていたことが嘘のように、急に桧が遠い存在に感じた。



 
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