短編小説
□センチメンタル・クレオパトラ
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もし、私の鼻がもうすこし低かったら、
私の脚が短かったら、
私が生意気を言うような女じゃなかったら、
私の性格がヒトに好かれるものだったら、
私の世界は少しでも変わっていたのかしら?
センチメンタル・クレオパトラ
「ヨーコさん!この書類お願いしていいですか?!」
「緒川さん、この前頼んだ会食の件なんだけど…」
「ヨーコさんプレゼンの添削してくれる約束でしたよね?!」
「…はーい、緒川ですが、何からいたしましょう?」
「あぁ待って!俺の用件が先!」
うーん、忙しいなぁ…
でも今はこの忙しさに救われている。暇だと色々考えてしまうし、仕事は私の生き甲斐といってもいい。
だいぶ肩身の狭くなっているおじさんの象徴とも言える煙草を潰し、喫煙室をあとにする。
するとぞろぞろと男たちも付いてきた。
「とりあえず会食が最優先事項じゃないかな〜?」
「ずるいっすよこの書類の方が提出先です」
「それくらい緒川さんに頼まなくてもできるだろう?」
「まあまあ、順番に片付けるから安心してください、まず───」
落ち着いて目の前の課題を処理しようと話しはじめる。
話しながら、女性社員の話が耳に入ってきた。
──ヨーコさん、ほんとに優秀よね〜あの年でチーフリーダーって出世頭だわ
──そういえばヨーコさんと営業の伊澤くん、別れたらしいわよ
──え!ほんと?!チャンスじゃん!
──なんでも伊澤くんの方から振ったとか…
──あー、まぁヨーコさん、なに考えてるか分からないところあるしね〜…
──優秀すぎる女も大変よね
こういうとき、自分の地獄耳をほんとに呪う。
「……ですから私はまず、永野くんのプレゼンを見て、そのあと会食の準備をしようと思います。」
「了解です!……あ、そういえば」
照れたように頬を染めながら年下の部下が切り出す。
「なに?」
トイレかしら…学生じゃあるまいし断る必要はないのに。
「今日、良かったらなんですけど──」
話している私たちを覆うように影が射した。
「おーい、この会計予算案、間違えてるぞー緒川ァ。」
先ほど私の噂をしていた女性社員達がキャアといろめきだつ。
「菊地部長…」
三十前半くらいだが部長職を任されている彼は、部内での人気も高い。
女性社員にキャアと言われるほどには整った顔を困ったように傾げる。
「珍しいな〜お前がミスするなんて。明日の会議に間に合わせないといけないから、手直し頼むな。」
ドサッと書類を渡される。
「……分かり、ました」
仕事はたくさんあるのに。完璧にやったつもりであったため余計に落ち込む。
ただでさえ傷心だから早く帰りたいのに…
───今日は厄日だな。
私の気などきっとつゆ知らず、部長は立ち去っていった。
「……で、さっきの話、なんだったの?」
「あっ!いえ、なんでも!またの機会にします」
「?そう、トイレなら好きに行っていいからね」
「……いや、そういうことじゃ……はい…」
新人の彼は、なぜかがっくりと肩を落として去っていった。